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2025年9月のつれづれ(富士実子、広沢美舟、国本はる乃、玉川奈々福、それぞれの躍動)

杉江松恋の月刊「浪曲つれづれ」 第5回

2025年9月のつれづれ(富士実子、広沢美舟、国本はる乃、玉川奈々福、それぞれの躍動)

銀座の地下で響く浪曲の魂

杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

銀座のバーで浪曲!? 富士実子の意外な舞台

 富士実子さんはなんであそこで浪曲をやっているんだろうな。

 ずっと不思議だった。

 富士実子は、ふじみこ、と読む。前・一般社団法人日本浪曲協会会長、現・相談役の五代目東家三楽(さんらく)の一番弟子で、2013年(平成25年)に入門し、翌2014年(平成26年)に協会入りして初舞台を踏んだ。

 三楽一門には実子、綾那、三可子、千春、志乃ぶという五人の弟子がいる。実子と綾那は亭号が富士、三可子以降は東家である。これは、師匠がもともと富士路子を名乗っていたからで、2018年(平成30年)に五代目山楽を襲名してからの弟子は東家、それ以前は富士なのである。

 上に書いた「あそこ」というのは、結構意外な場所だ。

 東京都中央区銀座8-5-6 中島商事ビル B1F、というからいわゆる銀八、クラブが入った建物で街路が埋め尽くされた並木通りの一角である。そこにある銀座クラスという店で、月に1回浪曲会を開いているようなのだ。曲師は沢村豊子門下の沢村道代が務めているようである。

 少し前から気づいていたのだが、なかなか足を運ぶ機会がなかった。この8月にたまたま時間が空いたので、飛び込みに近い形で行ってきたのである。

 掲載された写真をご覧いただくとわかると思うが、いわゆる雑居ビルの奥にその店、銀座クラスはある。扉を開けて中に入ると、そこには小ぶりながら浪曲のテーブルが設えられていた。コの字型にそれを囲んで客席、というかバーのソファーがある。奥のテーブル席が仕切られていて、そこが楽屋のようだ。

 19時Openとチラシにはあったが、すでにお客さんがいて飲んでいるようだ。それはそうだ、バーなのだもの。ちなみに2000円1ドリンク制である。