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落語愛を、次世代へ ~あの日の感動を、息子も知った

月刊「シン・道楽亭コラム」 第5回

はじまりは、いつもあの時の「新鮮な気持ち」

 あれほど円丈師匠の高座に衝撃を受けたのは、自分が初めて能動的に聞きたいと思った高座だったからかもしれない。それでも、これまで二次元で白黒だった落語の世界が、三次元で登場人物が立体的に動き出し、カラーになったようなあの衝撃を今も覚えている。

 ……とカッコつけたいところだが、実は忘れていた。円丈師匠の高座に驚いてハマったことは覚えていたが、どんな感情でその高座を捉えたのか、息子がべ瓶師匠の高座に感動したことを、興奮してまくしたてる様子を見て思い出したのだ。

 あの時の私も同じだった。興奮して「落語って面白いね」と母に何度もまくしたてていた。息子は今、べ瓶師匠の高座で受けた衝撃をキッカケにして、あの時の自分と同じ新鮮な気持ちで落語に向き合い始めている。そんな息子がうらやましくもあり、自分が好きなものを好きになってくれたうれしさもある。

 母は円丈師匠の芸風を「あまり好きじゃない」と言っていたが、私が円丈師匠の高座に衝撃を受け、落語にハマったことはうれしかったと思う。最初は新作ばかり追いかけていた私も、徐々に古典落語の魅力に気づき、若手を応援する楽しさを知り、母が知らない落語家を聞かせたくて寄席や落語会に誘うようになった。公演の後に、母と一緒に飲みながら感想戦をすることも楽しかった。

 母は新作落語には積極的ではなかったが、私に付き合っているうちに、面白さに気づいたと言ってくれた。亡くなる直前の数年は、私が教えてあげた春風亭一之輔師匠の大ファンになり、せっせと足を運び、一之輔師匠のCDが枕元に山積みになっていた。

 思い返すと、まだ息子が小さい時に寄席に連れて行ったが、息子にとっては落語よりもその後の外食のほうが楽しみだったのは同じだと思う。笑福亭べ瓶師匠の落語会も、「アンドシノワーズ(エスニック料理の店名)の料理が食べられるよ!」と誘った。

 ただ母と違うのは、私もべ瓶師匠が大好きなこと。「べ瓶師匠なら、息子も落語の面白さを感じてくれるに違いない」と、確信犯だった。これから一緒に落語を楽しめる仲間ができたことを心よりうれしく思うし、キッカケとなったべ瓶師匠に感謝している。

 そしてふと思ったが、母は円丈師匠に感謝していたのだろうか? 亡くなるまで円丈師匠の著書は欠かさず買って「円丈の本は面白い」と言っていた母だったが、昔のことだけはよく覚えている年寄りだけに、落語についてはなかなか印象が更新されていないようだった。でも今も生きていたら、さすがに円丈師匠に感謝しただろう。

 娘は好きが高じて、母の好きなものがたくさん詰まっている演芸小屋の席亭にまでなってしまったのだから。

共同席亭 U

シン・道楽亭の公演スケジュール

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         (毎月10日頃、掲載予定)