伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
- 講談

瀧口 雅仁
2025/09/27
1日8時間の猛稽古
――私が勝手に考えている女性講釈師は、世代的に、今風に言えば、その第一世代が宝井琴桜、神田翠月、天の夕づる、桃川鶴女で、先生たちは第二世代。その中でも先生は第二世代以降でトップを走り続けた講釈師だと思っています。
陽子 夕づる姉さんとは入れ違いだったので、私は夕づる姉さんの高座は見ていないんです。やはり一度は見てみたかったなと思います。琴桜先生もご結婚されて馬琴先生の門に移られてと、講談界自体は低迷期にありながらも色々と動いていた時代であったのは間違いありません。うちの師匠も将棋をやっていたので、将棋界に女流棋士が出て来て将棋界が隆盛を迎えているのを見ていますから、講談界にも女性を入れないとダメだって、ハッキリと思ったらしいんですよ。それで物凄い力を入れて、指導をしてくれました。私たちは最初の頃、1日8時間くらいお稽古をしていました。
――8時間ですか! そんなに長い時間、何をやるんですか。
陽子 午前中は掃除して、草むしりやはたきがけに雑巾がけをして、それを終えてからお稽古。3時になるとお茶の時間でまったりして(笑)。師匠が寄席だっていうと、カバンを持って一緒にお供をするんです。そうすると帰りにお蕎麦屋さんに寄って、ご馳走していただいて、帰ってからまた稽古です。
――一席を繰り返し稽古していくと言った感じですか。
陽子 繰り返しません。「『供と別れてただ一人』。はい、やってごらん」。「供と別れてただ一人……」「そうじゃない。『供と別れてただ一人』って下りていくんだ」って、歌い調子であれば、それができるまで次に行きません。テープにも録音させていただいて、それで覚えて師匠の前でやってみると、「それはこういう風に言うんだ」「手つきはこうだ」とか、まさに手取り足取りで、そんなにしてまで丁寧に教えてくれる人はいないと思うんですよ。
当時は三遍稽古でしょ。だから私もそうですが、弟子にはそういう形でしか教えられないんです。うちも稽古時間は長いんです(笑)。ただこれをやると、やっている内に、ここは語尾はもっと低い音だなとか考えられるようになるので、段々とお稽古時間も短くなっていきます。
――大変でつらかったのではないですか。
陽子 全くつらくはありませんでした。ただただ、嬉しいばかりです。つらいのは他の先輩方から、「女にできるのか。どうせすぐ辞めるんだろう」とか、「お嬢ちゃんたちのお稽古事じゃない」とか直接言われたことです。コンプライアンスなんかあったものじゃありません(笑)。
女性の弟子を積極的に取った師匠への風当たりも強かったですね。当時、本牧亭が上野にあったでしょ。上野動物園のパンダが人気で、お客さんを集めるために女の弟子を取った「パンダ山陽」だって言うんです。それが悔しくてつらかったですね。あとつらかったのは兄弟子の仕打ち(笑)。愛山兄さんの本も読ませていただきました。本当に丸くなって、明るくなって、こんな時代が来るとは思っていませんでした(笑)。みんなで「良かったねえ」って。
――愛山先生が「陽子が『小夜衣草紙』を教えてくれって言うんで、仕方ないから教えた」って喜んでました。
陽子 (笑)。狛江のカラオケボックスで教えてもらいました。30分か35分で終わる話なんですけど、終わると唄い出すんです。2~3曲くらい聞いて、「私も唄う!」って、マイクを奪い取って、勝手に唄いました(笑)。
(以上、敬称略)
▼神田陽子(協会員紹介 日本講談協会)
▼神田陽子(協会員プロフィール 落語芸術協会)
(中編に続く)
―― 瀧口雅仁『釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編』シリーズ連載一覧
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