伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/09/27
文学座から講談の世界へ
―― 文学座にいて、そのまま俳優の道に進もうとはお考えにならなかったんですか。
陽子 その頃の文学座って、田中裕子さんがいて、同期の富沢亜古(とみざわあこ)さんや矢代朝子(やしろあさこ)さんと、私なんかには無理だと思いました。去年『摂』という芝居をやっていて、あの主人公の朝倉摂(あさくらせつ)のお嬢ちゃまが亜古ちゃんで、矢代静一さんの娘さんの矢代朝子さんが全くの同期で、今も年中会っています。摂さんにもお世話になって、母と喧嘩したことがあって、朝倉家に1週間お世話になったこともありました。「どこか他へ行くんじゃなくて、うちに泊まりなさい!」「はーい」って(笑)。
その頃、朝倉摂さんって、夜中に絵を描き出すんです。「あんた、地球の裏側じゃ、ピカソが絵を描いてんだよ」なんて言い出して、「もう生きてないけど……」って思ったりもして。でも芸術一家って凄いんだなあと思いました。亜古ちゃんは亜古ちゃんで、朝からベンベンベンベンと三味線を弾きまくって、朝、寝ていられないんですよ。結局、亜古ちゃんは長唄の稀音家祐介(きねやゆうすけ)さんと結婚しました。私も人間国宝の今藤政太郎(いまふじまさたろう)先生のところへ三味線を習いに10年通っていたんですが、ものにならないので辞めたんです。三味線も長唄も音締めができないんです。
―― 私もギターや三味線やサックスをやったりもしたんですが、全くの楽器音痴で、まず楽譜が読めないし、続いた試しがありません(笑)
陽子 悔しいけど、わかります(笑)
文学座の『摂』は、瀬戸口郁(せとぐちかおる)の作品を西川信廣(にしかわのぶひろ)が演出した芝居で、築地小劇場開場100周年記念公演の一つ。彫刻家・朝倉文夫(あさくらふみお)の長女である朝倉摂は若くして才能を認められ、日本画家として歩みはじめていくが、やがて太平洋戦争が起こり、周囲が戦争一色に染め上げられる中、画壇に抗いを見せていく一作。陽子の同期の宮沢亜古は、摂の実娘で文学座所属の女優である。
芝居の世界から講談界へ転身した神田陽子であるが、当時は講談の低迷期。そんな中、女性講釈師を積極的に弟子に取っていた田辺一鶴と山陽ではあるが、その時、講談界は……。
―― 今、お話に出てきた寅さんの伯父さんというのは「田辺五鶴」と名乗った方ですね。
陽子 そう名乗っていた時期もあったようですが、最後は鶴陽でした。私が山陽のところへ入門したので、伯父も移って来て、一鶴と山陽から一字ずつもらった名前をつけていました。
―― 一鶴先生のところへと入門しようとは思わなかったんですか。
陽子 その伯父曰く、お弟子さんをいっぱい取るのに面倒を見ないし、教えないから、お前が入るなら山陽先生だよって(笑)。でも、一鶴先生は講談界の貢献者ですし、私たちも先生を見習って、講談界のために動かないといけないと思っています。

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