第四話 「初心者よ永遠なれ」

「令和らくご改造計画」

#2

 その「大丈夫」という姿勢に、人によっては慢心を感じて引いてしまう場合もあるし、ほんの一言の固有名詞でつまずいて、「やっぱり落語は難しい」と離れてしまうこともある。

 そうやって取りこぼしてきた『落語ファンになったかもしれない人たち』の数を想像したことがあるだろうか。落語を諦めてしまった人たちのことを、月に何回かでも思い浮かべているだろうか。

 そこまで業界全体のことを考えている人が少ないのも、確かに課題だ。

 しかし、仮に一個人が『この現状はまずい』と思ったとしても、解決するのはかなり難しい。どうしてか? そもそも、なぜこの状況は続くのか? 理由は単純で、「初心者向け」は儲からないからだ。それどころか、高いリスクを伴う。

 まず新規客を集めるには宣伝費がかかり、会場費がかかり、演者には出演料がかかる。さらに敷居を下げるためにチケット代は相場よりいくらか下げて、若年層も狙いたいだろう。

 それで当日、どうにか会場は満杯にできたとしよう。単発で見れば、これで赤字は避けられ、興行は成功だ。

──だが、問題はここからである。

 初心者は、二回目からは初心者ではなくなる。当たり前のことのようで、これが最大のネックだ。つまりリピート率がゼロになってしまうのだ。それは、演目が違えば何度か来てもらえるかもしれないが、それでも数回が限度だろう。

 長期的な常連客、つまり安定した客入りの保証がない。

 初心者向けに絞ってイベントを打つというのは、そういうことなのだ。短期的に見れば、はっきり言ってハイリスク・ローリターン。採算は取れない。そんな興行を、誰が継続して打ちたいだろうか。

 歌舞伎でそれが成り立つのは、もしかすると何らかの補助があるのかもしれないが、何より、落語と比べれば、そもそも一定の注目度が保たれている。

 「興味を持った人」が常に一定数いるので、定期公演を開いてもそう簡単には赤字にならないのではないか。

 しかし落語には、その後ろ盾も、注目度もない――。

 どんな時代にも興味を持ってくれる人は少ないながらも一定数いる。リスクを冒してでもそこに歩み寄らないのは、やはり愚かである。

 だが、やはり課題が多すぎる。イベント会社・会場・演者──誰か、もしくは全体の犠牲のもとにしか成り立たない。中でも特にネックなのは演者だ。

 落語家が無償で『鑑賞教室』をやれば、あるいは……。けれども、誰でもいいわけではない。腕があって、ちゃんとウケる落語家が……無償で……。

 実現できるわけがない。ちょっとした原付が買えるくらいのギャラを要求されるに決まっている。

第四話 「初心者よ永遠なれ」――