第四話 「初心者よ永遠なれ」
「令和らくご改造計画」
- 落語
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
#3
そんなことを考え、例によってまた頭を抱えていると、軽やかな足音が近づいてきた。
「兄さん、できました!」
振り向くと、前座の算用亭でん吉(さんようてい・でんきち)くんが立っていた。大学院でAI研究をしていたという異色の経歴を持つ男で、いつも理屈っぽく、瞳の奥に微かな光を宿している。
僕 「できたって、何が?」
でん吉 「AIです。落語を学習するAI!」
落語を学習……? そんなことをして何になる?
でん吉 「これまでの名人の高座をすべて学習し、抑揚・間・仕草・客席の反応を数値化。これをこの落語家型ロボット“874K(ハナシケー)”が出力することで、どんな観客にも『最適な笑い』を提供できるんです。“メカがうまく”噺を演じますから、名付けて──メカウマ計画!」(※落語「妾馬」にかけ)
僕 「うまくないよ……」
でん吉 「これを使えば、名人芸が無償で提供できます。寄席にかけ合って場所は貸してもらい、あとは高座で“874K”を使って『鑑賞教室』をやりましょう」
僕 「……けど、そんなロボでお客さんは楽しんでくれるかなぁ?」
だが、見せてもらうと驚いた。テンポは完璧、間は正確、オチはきれい。悔しいが――上手いとしか言いようがない。観客はどっと笑い、SNSでは「メカウマ最高」「ロボに人間国宝を」と絶賛された。……どうか人間国宝は、人間にやってくれ。
AI落語は、すぐに『鑑賞教室』の枠を飛び出し、寄席の看板にも「メカウマ」ロボたちの名が並ぶようになった。
そして次第に落語家たちは自信を喪失し、高座を譲っていった。
やがて「落語の革命」とまで呼ばれた。AIは一度もスベらない。噛んだり、台詞が飛んだり、そんなミスは一切しない。どんな状況でも、最短距離で笑いを起こす。
だが、そこで問題が起きた――。
観客が、笑わなくなった。
AIは完璧だった。だからこそ、人間の『不完全さ』の意味が壊れてしまった。失敗しない笑いに慣れた観客は、失敗しないという事実に冷めていった。
成功の価値は、失敗の存在によって支えられている。間違うことができるからこそ、人は成功に感動する。芸とは、その『ゆらぎ』を共有する行為だ。
だがAIは、そこを削ぎ落とした。不安定さを取り除いたとき、笑いは呼吸をやめた。
人は、完璧に計算された笑いにはもう反応しなかった。やがて誰も寄席へ足を運ばなくなり、落語は静かに姿を消した。
いま読まれています!
「令和らくご改造計画」
第十四話 「踊る金持ちピエロ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/09/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第47回
女性講釈師の歴史をたどる
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/09/13
「お恐れながら申し上げます」 第13回
深夜寄席が大変なことになっています
~新宿と復活した池袋、2つの「深夜寄席」が熱い!!
入船亭 扇太
2026/09/11
「艶やかな不安の光沢」 第4回
N氏の碑から浪江の海まで
~長崎の碧い海から、忘れられない故郷の海へ。喪失と希望のロードムービーのようなエッセイ
林家 彦三
2026/09/04
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「座布団の片隅から」 第17回
好楽
~祝・傘寿! タフすぎる三遊亭好楽師匠の宴
三遊亭 好二郎
2026/09/07
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「令和らくご改造計画」
第十三話 「誰のおかげで」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/08/13
「テーマをもらえば考えます」 第13回
フロートの向こう側
~テーマのクリームソーダにちなんで、いろんなお酒でフロート、やります!?
三遊亭 天どん
2026/08/31
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「座布団の片隅から」 第17回
好楽
~祝・傘寿! タフすぎる三遊亭好楽師匠の宴
三遊亭 好二郎
2026/09/07
「令和らくご改造計画」
第十四話 「踊る金持ちピエロ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/09/12
「朝橘目線」 第17回
やれ打つな 俺が手をすり 家事もする
~故人には感謝し、生きてる人には人見知り。落語家の可笑しく温かな日常を綴るエッセイ
三遊亭 朝橘
2026/09/08
「お恐れながら申し上げます」 第13回
深夜寄席が大変なことになっています
~新宿と復活した池袋、2つの「深夜寄席」が熱い!!
入船亭 扇太
2026/09/11
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第17回
ありがとう失言、待っているよ暴言
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/09/03
「艶やかな不安の光沢」 第4回
N氏の碑から浪江の海まで
~長崎の碧い海から、忘れられない故郷の海へ。喪失と希望のロードムービーのようなエッセイ
林家 彦三
2026/09/04
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回
四段目、 そば清、 愛宕山
~初心者でも楽しめる、オチがもっと面白くなる落語入門
林家 はな平
2026/09/06
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第17回
ありがとう失言、待っているよ暴言
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/09/03
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「テーマをもらえば考えます」 第13回
フロートの向こう側
~テーマのクリームソーダにちなんで、いろんなお酒でフロート、やります!?
三遊亭 天どん
2026/08/31
「座布団の片隅から」 第17回
好楽
~祝・傘寿! タフすぎる三遊亭好楽師匠の宴
三遊亭 好二郎
2026/09/07
「マクラになるかも知れない話」 第十三回
霊んメイカー2
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいに笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/08/25
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第15回
揺れ動いた、30代最後・熊本での夏
~祭り、地震、再会、人の優しさ。この夏に見つめた、自分の笑いの原点とは?
服部 拓也
2026/08/28
「艶やかな不安の光沢」 第4回
N氏の碑から浪江の海まで
~長崎の碧い海から、忘れられない故郷の海へ。喪失と希望のロードムービーのようなエッセイ
林家 彦三
2026/09/04
「くだらな観音菩薩」 第16回
迦楼羅
~何気なく使う言葉の奥には、意外な由来と物語がある。笑いと人情が溶け合うエッセイ
林家 きく麿
2026/08/16
「令和らくご改造計画」
第十三話 「誰のおかげで」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/08/13
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
編集部のオススメ
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「令和らくご改造計画」
第十三話 「誰のおかげで」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/08/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第44回
情熱に出会い、魂を語る 神田紅(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/08/09
「座布団の片隅から」 第16回
別荘
~優雅な大人の夏休み……のはずだった。涼やかな高原の別荘での珍事件を綴る爆笑避暑日記!!
三遊亭 好二郎
2026/08/07
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第16回
まだ満足にビールが飲めていない夏
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/08/03
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25