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グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)

「べべログ」 第3回

グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)

20年越しの味と笑い。蘇るあの日の記憶

笑福亭 べ瓶

執筆者

笑福亭 べ瓶

執筆者プロフィール

美味いやろ

今回ご紹介するお店は、僕の思い出も交えて。

大阪のシンボル、通天閣。

そのシンボルを尻目に北に歩いて2~3分。

小さな路地を曲がった先に見えてくるのが1961年(昭和36年)創業、いまも当時の趣きを残している小さな洋食店、グリル梵さんです。

入門して、2年ぐらい経った頃でしょうか。

大師匠である笑福亭松鶴師匠のお墓参りを毎月欠かさず続けている師匠に付いてお手伝いをさせていただいた後の帰り道、

車の中で師匠が

「ちょっと通天閣の方行ってくれるか。うちの師匠がよう行ってはった店があんねや。グリル梵や」

と言われ、いつもなら梅田に向かって北に走る道を南に走っていったあの日、師匠に連れられて入ったノスタルジックな洋食屋さん。

「おぉ、鶴瓶さん。いらっしゃい。こちらへどうぞ」

と、笑顔で迎えながら入り口すぐ横のテーブルに案内をするご主人。

「師匠の墓参り行ってて、お腹すいたから来ましてん。カレー煮込み、こいつの分と2つください」

お店のなんとも言えないディープな雰囲気にあてられた21歳の僕は、メニューを見る余裕もなくただただ師匠の向かいに座って何を話していいか分からず、視線は泳ぎっぱなし。

程なく、

「お待ちどうさま」

と運ばれてきたのが、カレーソースがたっぷりかかったヘレカツとライス。

「食べよか」
「はい。いただきます」

と、一口食べた瞬間。

たっぷりソースがかかってるのにサックサクの衣。

辛くもないけど甘くもない、なんとも言えない独特のカレーの香りが口の中に広がったかと思うと、その後ろから牛ヒレのあっさりした食感と一緒に肉の旨味が押し寄せてきて

思わず、

「師匠、なんですかこれは!」

と叫んでしまいました。

「美味いやろ。うちの師匠に新花月の出番の時、よう連れてってもろてな。街は変わったけど、ここはあの頃と変わってへん」

師匠の入門した頃の昔話を聞きながら食べたあのヘレカツの味は、今でも忘れることはありません。