ドーピングと芸名 ~志ん雀の由来~
「すずめのさえずり」 第五回
- 落語
古今亭 志ん雀
2025/11/26
それは始まった
落語家も、前座二ツ目のうちはその若々しさが愛されるのかもしれないが、真打になり「師匠」などと呼ばれる身で、あまり重みがないのも考え物なのである。
中には前座の頃から「キミ明治生まれ?」と言いたくなるような、妙な貫禄のある人もいるが。
人間そのものを語るのが落語であるから、それを語る落語家は、やはりお客様を納得させる、それなりの人間であらねばなるまい。
ある師匠が
「白髪が生えてきた時、お客さんに染めたほうがいいですよと言われたけど違うんだ。オレは早くジジイになりたいから嬉しかったんだよ」
とおっしゃっていた。その気持ちはよくわかる。
落語家が童顔であることのメリットはあまり思い浮かばぬし、ほとんど落語を知らずにこの世界に入った私にとって、スキンヘッドの師匠志ん橋が落語家のロールモデルであった。
おまけに生え際に「つむじ」があるせいで綺麗に左右に分けることもできず、こんな髪の毛など早くなくなってくれ、と思っていた。
髪の毛があるうちは。

亡き父も50歳にさしかかる頃にはだいぶ「来て」いたので、私もそのくらいの年になればそうなるだろうな、とは思っていた。そうなれば少しは風格のある師匠に見えるかなと。
ところがあろうことか、まだ二ツ目だった30代から、それは始まったのである。
ちょっとそれは、私の人生プランとは異なるそれであった。
すぐさま医者に直行し、必死の抵抗が始まった。
植毛やカツラは別として、実際に「生やす」治療となると、具体的な方法は主に①「脱毛を抑える飲み薬」②「発毛を促す飲み薬」③「発毛を促す塗り薬(発毛剤)」である。
なお、医学的に発毛効果が認められている「ミノキシジル」が含まれているのが「発毛剤」、含まれないのが「育毛剤」だ。飲み薬の服用には事前の血液検査が必要で、ドラッグストアで気軽に、とはいかない。
私が行ったのは①と③であった。

その後の涙ぐましい環境保護政策のおかげで、なんとか多少持ち直し、今日に至るまで保全はなされているのであるが、さてそうなると、今度は「いつそれを止めるのか?」という問いを突き付けられることになった。
ドーピングを止めれば筋肉が萎んでいくのと同じように、頭髪もみるみる失われていくのだろう。まるで玉手箱を開けた浦島のように。
私はそれを見て泣くであろうか。それとも念願のジジイになれたことに快哉を叫ぶのであろうか。
今は落日前の一瞬の輝きとばかりに髪を伸ばし、後ろで丸く束ねた「マンバン」とか呼ぶらしい髪型にしている。
とても落語家とは思えぬスタイルであるが、そこに人生の儚さを見ていただければ幸いである。
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