ドーピングと芸名 ~志ん雀の由来~
「すずめのさえずり」 第五回
- 落語
古今亭 志ん雀
2025/11/26
どうしよう
さて、ここで話題は、そんな貫禄が欲しい私の芸名「志ん雀」に移る。
一門ごとに、誰も継がずに永久欠番のようになっている名前がある。
よくネタにされるところだと、満州亭馬賊、おふね家ぎっちらこ、などがあるが、我が志ん橋一門にもそれはあった。
以前誰かが名乗っていたが継ぐ者がいない、ということではなく、とにかく師匠が真打になる弟子につけたがり、そして誰も名乗りたがらなかった名前であるが。
兄弟子たちが順番に真打になり、皆その名前から逃げ、ついに私の番がやってきた。
「師匠、名前なんですが」
「おう、いいのを考えたぞ。志ん鶴(シンツル)ってのはどうだ」
鶴。おめでたい鳥である。それに四代目の志ん生師匠は「鶴本の志ん生」と呼ばれており、なんとなくそれとも所縁(ゆかり)がありそうに聞こえる。
だが、この場合読み方は普通音読みで「シンカク」だろう。志ん生、志ん朝、志ん橋、皆音読みである。
シンツル……
いや、だってですよ。真打になる時には「口上」といって、自分の師匠や協会幹部の師匠がたと高座に並ぶ機会があるのです。
そこで、このスキンヘッドの師匠がおっしゃってくださるわけでしょう?
「えー、このシンツルは…」
お客様が混乱しやしませんか。いったいどっちが……
とは私は言わなかったが、ある兄弟子(名前は言わない)ははっきり言った。
「自分じゃん」
名前は言わない。
えーシンツルかあ……とは正直思ったが、これは師匠が弟子のために、弟子が少しでも良くなるように、との思いを込めて考えてくれた名前なのだ。
何度も師匠の顔に泥を塗ってきた不肖の弟子を、それでも見捨てずに置いてくれた師匠が。
無下に逆らうわけにもいかない。
でもなー。シンツルかあ。
なんとかここは穏便に……実は継ぎたい名前もあったのだが、もはやそんなことを言っている場合ではない。このままではシンツルである。どうしよう。
あ! 二ツ目昇進の時に師匠が挙げてくれた候補の名前はどうだ。これならばそんなに逆らうことにもなるまい。
その時は師匠と総領である志ん丸兄さんの前名である「志ん太」になりたかったのだが、
「志ん太はこないだまでいただろう(志ん丸兄さんの真打昇進からさほど間がなかった)。間違えられるとお前が損するからよしたほうがいい」
そして出された候補が「志ん雀」「志ん次」「志ん吉」であった。
志ん雀はなんとなく響きが真打っぽいし、志ん次は桂伸治師匠がいらっしゃるし、ということで志ん吉を選んだが、今こそ!今こそ志ん雀の出番ではないか。
「師匠、志ん鶴はとても良い名前だと思いますが、自分には鶴は大きすぎます。ここは二ツ目昇進の時に候補でいただいた志ん雀になりたいと思います」
滅茶苦茶な理屈である。鳥のサイズは関係ない。
だが、なんとかそれが通り、師匠が調べてくれた限りでは初代となる「志ん雀」を名乗ることになったのである。
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