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2025年12月のつれづれ(天光軒新月・五月一秀二人会、京山幸太・東京独演会)

月刊「浪曲つれづれ」 第8回

2025年12月のつれづれ(天光軒新月・五月一秀二人会、京山幸太・東京独演会)

五月一秀(左)と天光軒新月(右)によるトークコーナーの様子

杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

天光軒新月・五月一秀二人会

 11月の浪曲会はすでにお伝えしたとおり、28日に日本浪曲協会主催の恒例、豪華浪曲大会があったのだが、そちらは実際に足を運ばれた方も多いかと思う。

 昼夜興行で、昼の部は事前に予約でいっぱいになり、当日券も出せない、文字通りの満員札止になった。重要無形文化財の二代目京山幸枝若と五代目天中軒雲月という、東西の浪曲協会会長が顔を揃えた興行であったので当然である。

 夜の部は、全席がネタおろしという挑戦的な番組で、現役最年少の国本はる乃が「佐倉義民伝 甚兵衛渡し」でトリの大役を務めた。

 重要な会ではあったが、ここでは別の公演に触れたい。11月24日に大阪・心斎橋角座で開催された、天光軒新月・五月一秀二人会である。普段は他の寄席興行が開かれている角座が、この日だけは浪曲一色に染められた。

 この会は、天光軒新月がここ数年取り組んできた「浪曲五説経」完結を記念して開かれた。浪曲五説経とは、中世から続く語り芸・説経節を浪曲化するという試みである。2022(令和4)年4月24日に「和泉信太の白狐伝」(いわゆる『葛の葉』)、2023(令和5)年4月30日に「刈萱道心石童丸」、2024(令和5)年3月31日に「俊徳丸」、同年10月26日に「小栗判官照手姫」をそれぞれネタおろし口演している。今回の「山椒大夫」で見事結願(けちがん)である。

 これらすべてを台本化したのは、大阪で作家・画家の山下孝夫(島之内文化芸能協会)である。山下は古典芸能に造詣が深く、浪曲に関する催しも後援している。だが新月によれば、もともとこの試みは、作家の故・水上勉との縁から発心したものであったという。

 水上を敬愛していた新月は、あるとき直接作家と話す機会を得た。その際、自分の作品を浪曲化してよいという許しを得て、1991(平成3)年に代表作の一つ『越前竹人形』に挑んだのである。台本を書いたのは、浪曲作家のベテランである房前智光だった。水上・房前という大家に後押しされて「越前竹人形」を演じられたことは誠に光栄であったと新月は語る。

 その後、水上から説経節を浪曲化すべきだ、自分が台本を書いてもいい、という勧めがあった。残念ながら水上が2004(平成16)年に亡くなってしまったため、この企画は実現しなかった。新月にとっては三十年越しで作家の期待に応えたことにもなる。感無量だっただろう。