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第五話 「ヨセジャック事件」

「令和らくご改造計画」

第五話 「ヨセジャック事件」

絵:大熊2号

三遊亭 ごはんつぶ

執筆者

三遊亭 ごはんつぶ

執筆者プロフィール

#1

 ──ついに、恐れていた事態が起きた。

 暴走した前座さんが、寄席に立てこもり、お客様を人質に“ヨセジャック”をしたと言うのだ。聞きたくない単語だった。そして人質に取られたのは、昼席のお客様全員。総勢…6名!! ……大変なことだ。

 物騒な知らせを聞きつけ、慌てて現場の寄席へ向かうと、すでに警察車両が横付けされ、赤色灯がぐるぐると回っている。さらに寄席の木戸は黄色いテープで包囲されており、その光景というのは、なんとも現実味がない。

 入口付近で指揮を執っている刑事さんに声をかける。

僕 「すみません、落語家なんですが……これは、本当に前座の仕業なんですか?」

 刑事さんは、少し困ったように頷いた。

刑事 「ええ。さっき閉め切られた楽屋の扉に耳を当ててみたんですが、犯人たちはお互いに『テケツ』とか『はばかり』とか言ってましてね……」

 テケツ=受付、はばかり=トイレ。たしかに芸人の言葉遣いではあるが、落語通の一般客でも、ギリギリ使えなくはない。

僕 「それだけだと、断定はできませんよね。落語マニアのお客さんかもしれない」
刑事 「ところがですね…火鉢のことを明らかに『しばち』と言ってたんですよ」

 ああ……それは前座で間違いない。江戸言葉にこだわり始めて、ここぞとばかりに火鉢を“しばち、しばち”と言い出すのは、だいたい前座期特有のこじらせ方である。一般人がそこへ突っ込んでいくことは、おそらくない。

僕 「……たしかに、それは前座さんですね」
刑事 「間違いないと思います」

僕 「それで…彼らの要求は?」
刑事 「『前座にも、マクラを話す権利をよこせ』と」

 なるほど、そう来たか。

第五話 「ヨセジャック事件」――