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変わり者が集まっている世界で、「変わっている」と言われた日

「かけはしのしゅんのはなし」 第7回

夫婦水入らずの食事……だったのに

 この間、数年ぶりに妻と二人で外食をしました。

 場所は都内の老舗割烹。妻の御母さんに私の誕生祝いにと、隙あらば家で走り叫び回る子供たちの面倒を見ていただき、お店へ招待していただきました。確かに、子供と一緒には入れないような格式がある店構え。創業が1830年(天保元年)という歴史は、鼻水を垂らしながらベロでなめている我が子には高級すぎて入りにくいです。

 店内に入ったら、年季の入っている半纏を着た下足番さんに履物を預かってもらい、木札を渡され、歴史を感じる幅の狭い階段を上がって2階へ通されます。開店直後ですが、店内はほぼ満席。海外のお客さんも多く、畳敷きでそれほど大きくない座卓の前に座っています。

 久しぶりの夫婦水入らずの食事。考えてみたら、こんな老舗に個人的に来ることなど今までなかった。

 ありがたいことに、お客様に連れて行っていただくことはある。美味しい料理もいただく。だけど、気を抜いて美味しいと食べているだけではいけない。『この人が喜んでいただくことは何だろう』と気を張って食べるので、純粋に料理を味わうことはできない。

 食事が仕事と一緒になるのは、寂しく思ったりする。

 ただ、今日は違う。仕事ではない。妻と二人っきりの食事が仕事だと思うほど、夫婦仲は冷めきっていない。芋のソーダ割りを呑みながら、他愛のない話をする。何も考えずに思ったことを話し、時折考えて無言になる。出てくる料理を「美味い、美味い」と口をつける。

 自然体で外食することがこんなに良いものなんて。

 「ここのお店、なかなか予約取れなかったんだよ」

 気がつくと、向かいの卓に男女の二人連れが座っていた。楽しそうに話している男性は50代前半で、眼鏡を掛けた大学の研究職の教員をしているような風体。女性はこちらに背を向けているので顔はわからないが、髪を綺麗に結い上げて、青の地色に目がいく鮮やかな小紋の着物を着て座っている後ろ姿は、只者ではない。