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変わり者が集まっている世界で、「変わっている」と言われた日

「かけはしのしゅんのはなし」 第7回

最後に言われた一言

 この二人はどういった関係だろう? 芋のソーダ割りを持つ手が止まった。わかることは、男性が明らかにはしゃいでいる。一方的にずっと喋っている。

 「この間、一緒に見た義経千本桜に寿司屋が出てきたでしょう。あの寿司屋は実在していて、奈良の……」

 これに女性は、

 「あの千本桜で?」「寿司屋?」「奈良ですか」

 と絶妙な間合いで、言葉を拾う。客あしらいが上手い。そうすると男性は乗せられて、さらに喋りまくる。恐らく二人は付き合っている訳ではなさそう。女性は花街の方だろう。声柄から察するに、男性が知っていることを教えてあげようという感じで一方的に話したくなるほど、お若いんでしょう。

 そうなると男性は置屋の上客なのかな。それなりの稼ぎがないと通えないはずだし、妻帯者ではできないことだろう。それか莫大に稼いで、好きなことをして家庭を顧みない感じかもしれない。

 でも、そんなに仕事ができる人は空気を読まずに一方的に喋らないよな。

 男の人に「落語家です」って挨拶したら、御座敷に連れて行ってくれるかな。御座敷の遊びって野球拳しか知らないな。落語会のチケットも買ってくれるかな……。

 「話、聞いている?」

 妻に言われてハッと我に返る。自然体で過ごしているはずだった。だけど気がついたら、よくわからない妄想をしていた。これが私の自然体なのか。数年ぶりに夫婦水入らずで食事をしている状況で、一人の世界に入ることなんてあるのか。

 でも、これが落語家にとっては当たり前なのかもしれない。常にどこかにネタがないかと過ごしていくことは、至極当然なことだろう。

 後日、楽屋でこの出来事を話した。

 「やっぱり、周りにそういう人がいたら気になっちゃいますよね」

 先輩は言った。

 「お前、変わっているな」

春風亭かけ橋 公式ホームページ

(毎月18日頃、掲載予定)