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雪のココア

シリーズ「思い出の味」 第19回

数ヶ月前
師匠に「四季を感じなさい」と言われたのを思い出した途端
五臓六腑は“ココア”という五つ目の季節になっていた。

昔、なにかのテレビ番組で見たような
どこかの国のココアをつくる家までハッキリ見える。
寸胴にココアが入っていて
上等なバターを少しずつ専用のナイフで刻み入れながら
木のしゃもじでゆっくりとかきまわしている。
沸騰させた泡じゃない発酵状態にあるような
ポコポコが発生しながらココアが濃厚になってゆく。
そうやって、つくられているはずだ。

無意識に

「うまい」

と発した後、ココアを身体の中に滔々と流す時間。

アメリカにあるNIDA(国立薬物乱用研究機関)によれば
人間のドーパミンの分泌レベルは
平常時で100%
美味しい物を食べる150%超
ニコチン220%超
覚醒剤1000%超
とされている。

さすがに1000%はありえないが
修行により平常時の100%が抑えられ
平常時15%ほどだったとすれば
ニコチンをこえていた計算になるのではないだろうか?

缶のタブから口が離れると
幻想を魅せていたVRマスクのような物もとりはずされ
そこは冬の田端駅ホームだった。

その数ヶ月後
前座として寄席に入るようになると
金さえあれば自販機でココアを飲むチャンスが増えた。
夏のココアも楽しんだし
あの、ピーチネクターを飲めるくらい生意気になるのだった。