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雪のココア

シリーズ「思い出の味」 第19回

やがて師匠の家を巣立ち
二ツ目になったある日。

冬の田端駅を
思い出して
同じ冬に同じ自販機
おそらく同じココアを飲んだ。

きっとあれには隠し味にバターが入っていて
かなり高級なカカオをすりつぶして
少しチョコレートも入れて香りを足しているはず。
あの時の感動を味わうとしよう……。

ガコッ

プシッ

だけど

それは、薄い、薄い、ココアに変わっていた。
管理会社が変わったのか
営業方針が変わったのか
何か大きな事情があるのだろう
とさえ思う程、味が変わっていた。

あれは、ココア工場のひとが特別にこしらえた
当たりの一缶だったのか?



真打になって
当たり前のように300円以上のコーヒーを注文できる
いい身分になった今では
さらに感じ方は違うと推測される。

きっと、同じ冬、同じ自販機、同じココアを飲んだとて
お湯の中にココアの粗い成分がたゆたっている
ほとんど “お湯”にしか感じないだろう。

つまりあの味は
あの時のあの環境だからこそ、そう感じることができた
思い出の味になっている。

柳家わさびX(旧Twitter)

(了)