NEW
〈書評〉 小金井芦州 啖呵を切る(長谷川憲 聞き書き)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第10回
- 講談
- Books
杉江 松恋
2026/02/19
襲名と休業、そして復帰
本文に書かれていないことはほかにもあり、1950(昭和25)年に三代目小金井芦州の門人だった宝井馬秀が五代目を襲名した翌1951(昭和26)年、西尾麟慶から「神田愛山(かんだあいざん)」となり、本牧亭で11月6日から8日間の襲名興行を行っているが、以降その名前では一度も高座に上がらず、すぐ「西尾麟慶」に戻っている。この襲名は、神田派宗家を名乗る山田春雄の推挙だったという。
山田春雄、通称ヤマハルは芸人ではないが、興行界の顔役としてとかく噂のあった人で、八代目桂文楽や二代目神田山陽の著書を見ると、たびたび名前が出てくる。おそらく横車を押されるようなことがあって、断り切れなかったのではないだろうか。
馬秀の五代目は、四代目の門人であった麟慶がいずれ六代目を襲名したいという意志表示をしたため、1958(昭和33)年に三代目小金井桜州に改名したが、二年後に84歳で亡くなっている。となれば麟慶が跡を継いでもよさそうなものなのだが、年譜で見るとこのへんは少し不穏なのである。1958年、32歳の時には「九月から長期無断欠席続ける(四か月)」との記載がある。また桜州が亡くなった1961(昭和36)年には「三月から高座休業中『講談ではメシが食えない』」との記述があり、翌3月まで休んでいたと思われる。
復帰後は比較的順調で、1965(昭和40)年には11月1日から7日まで、本牧亭で「六代目小金井芦州」の襲名披露興行を開いている。以降の活動は安定しており、1971(昭和46)年に弟子として小金井総州(後の四代目宝井琴柳)が入門するなど、講談界での地位も実力に追いつく形で安定、1991(平成3)年3月から2001(平成13)年3月までは講談協会の会長も務めている。2003(平成15)年6月29日没、享年77。
というような情報をあらかじめ持ってから手に取ると、本書はさらに興味深く読めるのではないかと思う。
以前、当ウェブで『はなしか稼業』(三代目三遊亭円之助 著)を紹介した際、新宿末広亭の席亭失言に腹を立てた前座時代の六代目芦州が、寄席から姿をくらました話を紹介した。師匠の命で所属していた落語芸術協会もすっぱり辞めてしまった。その事情については、当人は本書でこう語っている。
芦州 [……]どうして辞めたかってえと、今の(桂)米丸がいきなり二つ目で入っちゃったから。それでね、それから一年位かな、やってたら、入って来たのが今の文治(本文註:十代目桂文治)。で、オレは講釈師でしょう。だって(前座が)いねえンだからね。釈台を持ってってバンとおいて、一席演って、又、降りる時、釈台を持って、こんなくだらねえ話ないよ。
寄席の絶対数が少なく、講談から見れば色物である落語の席に出なければならない若い講談師の鬱屈が見えるようだ。当然だが、この遁走は四代目芦州の顔を潰すことになり、しばらく旅を命じられる。そこで属したのが、二代目広沢虎造の浪曲一座だった。講談・落語でいう膝代わり、トリ前のモタレを任されたという。
いま読まれています!
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第10回
〈書評〉 小金井芦州 啖呵を切る(長谷川憲 聞き書き)
~昭和講談界の空気と、一人の芸人の輪郭が鮮やかに浮かび上がる一冊
杉江 松恋
2026/02/19
「かけはしのしゅんのはなし」 第9回
1粒432円のご褒美チョコレート
~歴史も家族も笑いも一箱に。読むだけで食べたくなるベルギーの甘いチョコ
春風亭 かけ橋
2026/02/20
「講談最前線」 第14回
2026年2月の最前線(聴講記:講談協会「初席」、日本講談協会「講談広小路亭」/2月と3月の注目の公演)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/02/15
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
「朝橘目線」 第10回
鼻の中 そこのけそこのけ お水が通る
~もっと早く出会いたかった、人類の叡智の結晶
三遊亭 朝橘
2026/02/08
「かけはしのしゅんのはなし」 第8回
祖母と娘と、変わらないホットケーキ
~ふくらむ生地と、ふくらむ想い
春風亭 かけ橋
2026/01/18
「くだらな観音菩薩」 第10回
帝釈天
~うまくいかない日もあるけれど、楽しいことを探す力があれば大丈夫!
林家 きく麿
2026/02/16
「コソメキネマ」 第九回
毎日映画、毎日浪曲
~太夫と三味線弾きの成長と恋を描く映画をご紹介!
港家 小そめ
2026/01/22
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
「講談最前線」 第14回
2026年2月の最前線(聴講記:講談協会「初席」、日本講談協会「講談広小路亭」/2月と3月の注目の公演)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/02/15
「くだらな観音菩薩」 第10回
帝釈天
~うまくいかない日もあるけれど、楽しいことを探す力があれば大丈夫!
林家 きく麿
2026/02/16
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「噺家渡世の余生な噺」 第10回
老害は老後から始まらない説 ~老害とヒエラルキー思考
~正しさより、立場を守る人たちへ
柳家 小志ん
2026/02/14
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第10回
〈書評〉 小金井芦州 啖呵を切る(長谷川憲 聞き書き)
~昭和講談界の空気と、一人の芸人の輪郭が鮮やかに浮かび上がる一冊
杉江 松恋
2026/02/19
「二藍の文箱」 第1回
入門前夜
~神様わたしに落語を授けてくださりありがとう
三遊亭 司
2025/06/02
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「朝橘目線」 第10回
鼻の中 そこのけそこのけ お水が通る
~もっと早く出会いたかった、人類の叡智の結晶
三遊亭 朝橘
2026/02/08
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【中編】
~伸びた鼻っ柱が折られた、小さん師匠のひと言
話楽生Web 編集部
2026/01/26
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【後編】
~急がず、無理にいじらず、忠実に磨き続ける。その姿勢がまっとうな芸を支える
話楽生Web 編集部
2026/01/27
月刊「シン・道楽亭コラム」 第10回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.2
~共同席亭という名称のひらめきと、橋本さんとの生前最後の面談詳細
シン・道楽亭
2026/02/10
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「浪曲案内 連続読み」 第9回
三味線と 浪曲唸って 二刀流 弾く手あまたな 伊丹秀敏
~浪曲史に愛され、刻まれた最高の曲師
東家 一太郎
2026/01/23
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
「すずめのさえずり」 第七回
ない物ねだり ~小堀さんのこと~
~苦労を知らず、破天荒でない自分だから欲しくなる「向こう側」の人生
古今亭 志ん雀
2026/01/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/02/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【後編】
~急がず、無理にいじらず、忠実に磨き続ける。その姿勢がまっとうな芸を支える
話楽生Web 編集部
2026/01/27
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【中編】
~伸びた鼻っ柱が折られた、小さん師匠のひと言
話楽生Web 編集部
2026/01/26
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
「浪曲案内 連続読み」 第9回
三味線と 浪曲唸って 二刀流 弾く手あまたな 伊丹秀敏
~浪曲史に愛され、刻まれた最高の曲師
東家 一太郎
2026/01/23
「くだらな観音菩薩」 第9回
伎芸天
~努力は報われるのか、裏切られるのか
林家 きく麿
2026/01/16
「講談最前線」 第14回
2026年1月の最前線(新春ご挨拶 : 宝井琴調・講談協会会長 & 神田紅・日本講談協会会長、今年の顔 : 田辺いちかインタビュー)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/01/15
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第9回
昭和101年に寄せて ~落語は新しい!!
~落語を未来へ手渡す人々
シン・道楽亭
2026/01/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01