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〈書評〉 小麦畑できみが歌えば (関かおる 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第9回

届かなかった声の、その先へ

 オーディションといえば、テレビ番組の『細かすぎて伝わらないモノマネ』のオーディションを受けたことがある。

 私はモノマネが苦手だ。しかし、当時は誰でも参加できるオーディションを選り好みするような時代ではなかった。無理矢理、自分にできるモノマネを絞り出し、オーディションを受けるためにフジテレビへ向かった。

 控室には、このオーディションに心血を注いでいる芸人たちが様々な衣装に身を包み、メイクや小道具に工夫を凝らし、ぶつぶつと独り言のように練習を繰り返している。

 名前を呼ばれ、別室に通される。

 数名の番組スタッフと記録用のカメラの前で、用意してきたモノマネを披露する。私は必死で絞り出した渾身の“細かすぎて伝わらないモノマネ”を披露した。

 モノマネを終えると、スタッフの一人がおもむろに口を開いた。

 「今日、君で20人目だよ。半沢直樹」

 当時、日曜劇場『半沢直樹』が大ヒットしていた。私のオーディション開始時刻は、夕方頃だった。朝から100人以上のモノマネを見てきているのだろう。この人たちは、この小さなオーディション会場の一室で、私の前にすでに19人の「倍返しだ!」を喰らっていたのだ。

 私は潔く、「すみません。ありがとうございました」とネタ披露を終え、会場を後にした。スタッフの一人が「それだけ!? それだけで来たの!?」と、驚いていた。

 もちろん、この小説にはそんないい加減な参加者は出てこない。

 オーディションという人生を賭けた場面、物語と登場人物の熱量に引き込まれる。美しい文章からは、まるで音楽が聴こえてくるようだ。

 続編が出るなら、私は初日に買いに行く。

 紆余曲折あり、年齢と経験を重ね、私は今落語の世界で夢を追っている。芸の形は変わったが、信念はぶれていないと思っている。唯吹の歌声のように私の落語もどこまでも遠く、たくさんの人に届けば嬉しい。

 しかし、ボイトレのしすぎで、オペラのような落語になってしまい、

 「こ~~~んに~~~ちは~~~~~~!」
 「お前か~~~いな~~~~、まぁまぁ~こっち上がり~~~~~~!!」

 と、リアルに遠くまで届く落語をやり始めた時は、「発声が良くなりすぎている!」と、私の頭を手前に引っ張り、正しくない姿勢にしてほしい。

笑福亭茶光 X

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  • 書名 : 小麦畑できみが歌えば
  • 著者 : 関かおる
  • 出版社 : KADOKAWA
  • 書店発売日 : 2025年11月
  • ISBN : 9784041164464
  • 判型・ページ数 : 四六判・224ページ
  • 定価 : 2,035円(本体1,850円+税10%)

(毎月1日頃、配信予定)

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