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上方落語大会議「なんぼでなんぼ」

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回

上方落語大会議「なんぼでなんぼ」

苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?(画:大久保ナオ登)

桂 三四郎

執筆者

桂 三四郎

執筆者プロフィール

炎天下の野外で30分の落語!?

「言葉には力がある」 

先月のエッセイでそう書いた。

調子に乗って言った一言で手痛いしっぺ返しを喰らいますよ、という意味の

「言霊のブーメラン」

このエッセイを書いた直後に、めちゃくちゃでかいブーメランが返ってきてしまった。

8月頭、お客様から1本のメールが届いた。

「こんな落語会で頑張ってる人いますよ~」

添付された画像を見て驚いた。

とある落語家が閑散とした炎天下の野外で、落語を披露している写真だった。

実は、落語家には見られたい仕事とあまり見られたくない仕事がある。

人に見ていただいてなんぼの商売なのに、あまり見られたくない仕事……。

めちゃくちゃに矛盾しているけど、確かに存在する。

まあ、いわば同業者には見られたくない仕事ってことなんだけど。

「堂々30分の持ち時間を務められました!!」

30分!!

なが!!

今年の8月の暑さは40℃超えの地域もあるくらいの猛暑で、Tシャツ短パンでも熱中症になるくらいの暑さだ。

言っとくけど、やるほうも地獄だけど、聞くほうも地獄よ……。

その上、我々は着物を着ている……。

しかも、こういう仕事の時は、汚れても洗えるポリエステルと相場が決まっている。

つまり体中にサランラップを巻きながら、炎天下で30分落語をするという状態。

電子レンジで温められている肉まんが落語しているようなものだ。

これは、なかなか過酷な仕事だ。

落語家たちの下世話な大会議

すぐに、その場にいた落語家仲間と会議が始まった。

どういう会議かと言うと

「夏の炎天下の野外!! 持ち時間30分!! この仕事を受けるか否か!!」

ではない。

「この仕事、ギャラなんぼやったら行く!?」

という世にも下世話な上方落語大会議

「なんぼでなんぼ?」

である。

我々もプロ!!

そこは評価額で決めようではないか!!

というなんとも下世話な会議だけど

楽屋内は、下世話であれば下世話であるほど盛り上がる。

「いや~、この仕事は受けられへんな~」
「この仕事やったら、これくらいは欲しいな~」
「でも、熱中症になってもしものことがあったら、これが最後の舞台ですよ」
「それは嫌やな~」

ほかにも扇風機は置けるのか?

アイスノンを体中に貼ろう!!

落語中に給水していいのか?

落語中に放水してもらおう等と様々な意見が飛び交い

みんなの中で「〇〇円なら歯を食いしばって行く」という決定が出された。

その時、ある若手が言った。

「私はお金に関係なく行きますよ。お客様の前で落語できるのに、値段なんて気にしません。お声がけしていただいたことがありがたいですから」

キラキラした、世の中の汚れを全く知らないような綺麗な目で見つめられた下世話な落語家たちは、目線を落としながら

「そ、そうだよね……」
「僕たち、お金のためにやってるわけじゃないもんね……」
「そうだよ、落語を聞いてもらえるだけで幸せさ!!」
「さ、そろそろ開演の時間だ!! 今日もお客様を楽しませよう!!」
「そうだ!! 今日の出演料はみんなユニセフに寄付しようよ!!」
「うん、それはいい!! そうしよう!!」
「そうしようそうしよう!!」

そんな人間は一人もいるわけがなく、全員が

「じゃかましわ!! この青二歳が!!!! 地獄みたいな環境の仕事を雀の涙みたいなギャラでこきつかったるさかいな!! 覚悟しとけボケナス!!!」

と心に誓い、この会議は終わった。