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私はもっとかっこいいはずだ。
柳家さん花の「まだ名人になりたい」 第2回
- 連載
- 落語

雨と角度が力不足で…(画:柳家さん花)
雨と罰
私は雨を克服したい。雨を悪く言うと、何かに負けた気がする。そう思うのは、私だけではないはずだ。そう思ったことのない人は、自分の心にまだ開いていないページがあるだけだ。
雨が降る前の匂いが好きだ。夜、寝る時に微かに聞こえてくる雨音も愛おしい。子供の頃は当然として、私はいまだに台風が来るとわくわくする。台風は、大きければ大きいほどいい。
ボブマーリーの言葉に、「雨を感じる人もいれば、ただ濡れる人もいる」というのがある。私はもちろん感じる側だ。他人様からはそう思われたい。
ところがだ、仕事に行く途中、雨に降られ濡れるのだけは絶対にイヤだ。私は自分が一番なりたかった職業である落語家になり、大好きな落語を語らせていただき、夢のような人生を送っているが、高座に上がりたくない日が結構ある。
そんな日に限って、雨が降ることもある。重いリュックを背負い、もしくはスーツケースを転がし、弾まない足を引きずり、傘を差したところであちこち濡れる。どうしろと言うのだ。
私だって、できれば雨を感じる側に立ち、雨に濡れて苛立つ他人を鼻で笑いたい。夢のような人生を送りながら、他人を鼻で笑うことがそんなに悪いことか? よしんば悪いとして、行きたくもない仕事の日に雨は罰が重すぎやしないか。