2026年4月のつれづれ(町田康の木馬亭公演、雲月会長の留任と舞台復帰、浪曲「陰陽師」の新展開)
月刊「浪曲つれづれ」 第12回
- 浪曲
杉江 松恋
2026/04/09
浪曲はいま、外界に向けて開き始めている
浅草木馬亭に降臨!
3月最大の事件は、「町田康 木馬亭に登場」だったと思う。
町田康は1981年にパンクロックバンド〈INU〉で「メシ食うな」を歌ってミュージシャンとしてデビュー、当時の名義は町田町蔵であった。1996年に町田康名義で『くっすん大黒』(文春文庫)を発表し、小説家として本格的に活動を開始した。
その町田康が出演するイベントが開催されたのである。3月18日夜、「町田康木馬亭初見参! 浪花節との共振!」がそれである。木馬亭が満員の観客で埋め尽くされた。その半数以上が、普段浪曲定席で見かけることのない方であった。年齢層から見て〈INU〉以来のファンも多かったと思われるし、作家・町田康目当ての文芸読者も確認できた。浪曲という箱が外界に向けて開かれたのである。
番組はW.C.カラス&KOTEZの出番から始まった。W.C.カラスはブルースギタリストで、近年はローキョックンロールと題した弾き語り演奏にも力を入れている。共演のKOTEZはブルースハープ奏者だ。この日は『宇治拾遺物語』に題材を採った「平定文、本院の侍従に懸想すること」をギターとハーモニカ演奏で語った。初めてこの物語を聴いた人はとんでもない内容なのでびっくりしたと思うが、ほぼ原作通りである。
かねてよりブルースは浪曲と相性がいいと思っていて、「ジョン・リー・フッカーのギターでアレサ・フランクリンが歌うような感じ」と私は説明することがある。我が意を得たりのステージで、開幕から客席は盛り上がった。聞くところによれば、W.C.カラスがこの企画の発案者であるらしい。
港家小ゆき&広沢美舟、シャウトする新作浪曲
続いての浪曲2席は、まず港家小ゆき&広沢美舟が「ハリエット・タブマン伝 ~Black Lady Mose~」を口演した。小ゆきは、宮本旅順の筆名で浪曲作家としても活動している。南北戦争時代に奴隷解放運動家として活躍した黒人女性の伝記作品、その前半部にあたるのが本作だ。小ゆきは熊本県山鹿市出身なので、黒人たちはみな肥後弁で話す。「ブルースと共演するなら、そのルーツをたどらなければ」と前置きして口演に入った。小ゆきの新作浪曲は、節も啖呵もシャウトする。歌い上げるのではなくて、文字通りの叫びである。台本もそうだが、この要素は従来の浪曲ではあまり聴くことがなかったのではないかと思う。
5月4日(月・祝)には「港家小ゆき十五年目の挑戦!」として「宮本旅順を唸る」の浪曲会が木馬亭で開催される。これは宮本旅順作品を小ゆきと他の浪曲師、木村勝千代、広沢菊春、三門綾が唸るという試みだ。これ以外にも6月20日(土)からアートスペース兜座を会場として、新作を中心とした小ゆきの定期浪曲会が始まることになっている。ぜひご注目を。

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