このあたり 目に見ゆるものは 皆換金
「朝橘目線」 第12回
- 落語
三遊亭 朝橘
2026/04/08
新しく購入した座布団に座って稽古。顔が険しいのは、怪談だから
このあたり 目に見ゆるものは 皆涼し
(このあたり めにみゆるものは みなすずし)
――松尾芭蕉(笈日記)
エレベーターで一緒になった大家さんちの子、中学生がタブレットを持っていたから「それは私物? それとも学校の?」と聞いたら「私物だけど、学校からの連絡事項もこれで見る」と。思わず「ふぇ~」と間抜けなリアクションをしてしまった。昭和おじさんの自分には、そういうのがとても新鮮である。
故郷・沼津市での子ども向け落語イベントをやった時、主催者が市内の小中学校にチラシの配布をお願いしたところ、画像データを送ってくれればそれで良い、と。なるほど、それを送信するのね。じゃあ、今どきの学校では、先生が指をペロっとしてから、わら半紙に印刷されたプリントを配って後ろに回せ、とかやらないのか。わら半紙のザラッとした手触りは、わりと好きだった。指ペロは本当に嫌だった。
子どもたちの通う幼稚園との連絡も、すべてアプリでやっている。日頃の活動を写真で見られるし、便利だと思う。私は字が恐ろしく汚いので、先生に見苦しいものを出さずに済むのも嬉しい。おじさんが子どもの頃は、予定帳だか連絡帳だか、そういうのを毎日使っていたもんだ。懐かしい。
3月のいつだったか、幼稚園の連絡アプリについてのメールが来た。このアプリでの記録を一冊の本にして、思い出を残しませんか?という内容だった。最初から連絡帳で良かったんじゃないか? いろいろ追いついてないというか、やれアプリだシステムだって、無形のものを追い求めすぎな気がする。便利なのは認める。
飲食店での注文も、スマホでやるところが随分と増えた。店側は人員不足を解消できるし、私みたいな人見知りは、店員さんとの接触を回避できて助かる。何をどれだけ頼んで、今いくらなのかすぐに分かるし、再注文とかも便利だ。良いことだらけに思うが、お皿下げてほしい時は、店員さんに言うしかない。「店員呼び出し」の項目が結局なくせない。
LINEで友達登録のお店は、その後のお知らせLINEが多すぎる。紙のチラシならこうはならない。無形ゆえに際限なく放り込まれる。朝起きて未読のLINEがすべてこの手のお知らせだと、ものすごく虚しい。「友人や知り合いからの連絡と思ったか? 残念だったな、お前は今までもこれからも、ずっと独りぼっちなんだよ!」と言われている気になる。まあ、その通りではあるが、本当のことを言われると人間ってのは怒るんだよ。アプリにゃ分かんねえだろうがな。
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