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2025年6月のつれづれ(浪曲と地歌舞伎競演、その他さまざまな挑戦)

杉江松恋の月刊「浪曲つれづれ」 第2回

過去と現在が響き合う木馬亭

 5月のゴールデンウィークには、木馬亭定席も企画公演をするのが常になっている。その中で5月1日は、「木馬亭の日」と題した公演となった。これは、1970年の同日に木馬亭定席公演が始まったことを記念したものだ。

 ちなみに初日は、「雷電山の名刀」東家浦清(後の二代目東家浦太郎)、「寛永三馬術」木村忠衛、「梶川女一代」東家菊燕、「原敬三日のしゃば」木村忠若、「三変人」玉川次郎、「豊竹呂昇」松平洋子という番組であった。

 去る5月1日の番組では、「山の名刀」富士実子、「原敬の友情」国本はる乃、「三日の娑婆」富士琴美、「雷電小田原情け相撲」東家孝太郎、「豊竹呂昇」鳳舞衣子、「梶川屏風まわし」港家小柳丸と、55年前の舞台にちなんだ外題が並べられた。

 お聴きになった方の中に、1970年の木馬亭をご存じの方はどのくらいいらっしゃったのだろうか。ちなみに5日には「木馬はえぬき会其の一」として、現在の木馬亭で修行して育った若手たちによる公演が行われた。最後に上がった東家孝太郎は、これが木馬亭定席で初の主任である。

「新作の日」で輝く浪曲の世界

 6月の木馬亭でも企画公演が行われる。7日が「新作の日」で、自作の「物くさ太郎」で玉川奈々福がトリをとり、その前(モタレ)を木村勝千代がこれも自作の「ローマの休日」で務める。

 「物くさ太郎」は、初演に近いときに聴いているが、クライマックスで奈々福が「結局○○○○○かよっ」と叫ぶところで大笑いした記憶がある。ああいう風にちょっとメタな視点が入ることがあるのが、奈々福新作の隠れたお楽しみだ。

 この「新作の日」で個人的に注目しているのは、中入前の港家小ゆき「ハリエット・タブマン伝「B.I.M.」」(宮本旅順作)だ。最近の港家小ゆきは、故郷の偉人であり、桃中軒雲右衛門に弟子入りしたこともある思想家・宮崎滔天を主人公としてみたり、ハリエット・ビーチャー・ストウ作『アンクル・トムの小屋』を浪曲化してみたりと意欲的な活動が目立つ。

 ハリエット・タブマンは19世紀アメリカで黒人奴隷と女性の解放運動に従事した。黒人奴隷を逃がす〈地下鉄道〉活動は、最近になってコルソン・ホワイトヘッドの小説『地下鉄道』(谷崎由衣訳。ハヤカワepi文庫)がベストセラーになったこともあってまた注目を集めるようになったが、それに深くかかわった人物でもある。

 その人生を、どう語り唸るのか。これは浪曲に関心がない人にもぜひ聴いてみていただきたい。