NEW

じゃがいも

シリーズ「思い出の味」 第5回

じゃがいも

今も思い出す、懐かしい料理の味と、かけがえのない時間の記憶

立川 談吉

執筆者

立川 談吉

執筆者プロフィール

故郷の味

 十勝の食料自給率は、1000%。

 故郷、北海道十勝地方について喋る時に使う言葉なのだが、なかなかのパワーワードである。たとえ食料自給率の意味を知らない人でも、1000%と聞くだけで「ナニソレ凄い」と感心してくれるので大変に誇らしい。

 何しろ、1000は100の10倍であるだけでなく、10の100倍なのだ。アホの子みたいな言い回しになってしまった。

 お国自慢を聞いて、不快に思った方には謝罪をしておきたい。悪いことをしたら謝るのと、食べる前に飲むのは、世間と胃薬の常識である。

 ちなみに、北海道全体では200%、日本全体では40%ほどなのだそうだ。ありがたいことに、故郷には食べ物が溢れているのだ。

 「好きな食べ物は、何ですか?」と聞かれたら、最近は「じゃがいも」と答えている。もちろん焼肉やラーメン、寿司、天ぷら、芸者、ハラキリなども好物であるが、それらを含めて熟考した結果が「じゃがいも」なのである。

 とはいえ、味覚は歳を重ねると変わるものだ。数年前はイカの塩辛と羊の肉、さらに前は鮪とプリンなどと答えていた。気分屋なので、明日には「ジャンバラヤ」と言っている可能性もある。

 もし、こんな面倒な落語家に差し入れをしてあげたいとお考えの奇特な方がいらっしゃったとしたら、これだけは伝えておきたい。落語会に来てくださるだけでありがたいですし、たいがい何でも喜ぶし踊るし吠えるし嬉ションしますので、気にしないでくださいと。

 なぜ、じゃがいもが好きなのか。好きに理由はいらないと思うが、おそらく子供の頃から食べていたからだろう。

 十勝地方は、じゃがいもがたくさん採れるので、あらゆる種類のじゃがいもがある。メークイン、男爵、キタアカリ、十勝こがね、インカのめざめ、シャドークイーンなどなどなど。正直、ソムリエではないので、どれがどれと区別のつかないものもあるが、美味しいことに違いはない。

 毎年、実家から何らかの種類のじゃがいもが送られてくるので、農家の方に感謝をしながらありがたく食べている。

 熱々のふかし芋にサクッと箸を入れて半分に割り、湯気の出ているお芋にバターをたっぷり乗せるとトロトロと溶けていく。バターが完全に溶け切る前にお芋と一緒に口の中に入れ、ほふほふしながら食べるのは最高の贅沢である。

 メークイン系はしっかりしているので形が崩れないが、男爵系はぼろぼろと崩れる。溶けたバターと崩れたじゃがいもが混ざり合ってマッシュポテトのようになったのを食べるのもまたいいものである。ああ、やはり、じゃがいもはイイ。