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エッセイが始まる

桂三四郎の「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第1回

仏の顔も3年まで

ただ、締め切りの捉え方は、人それぞれ違う。

世の中には上には上がいるのもので、僕の友人のとある制作者からすると、

「締め切りは取引先にブチギレられてから始まる」

のだそうだ。

「ブチギレられなければ、締め切りは永遠に訪れない」という意識は、もはや尊敬に値する。

その一方で「こいつに絶対仕事は頼まない」と固く心に誓った。

はっきり言う。僕は、締め切りを守らない人間が大嫌いだ。

締め切りを守らない人間が締め切りを守らない人間を認めてしまうと、世の中がおかしくなる。

だから、僕の提示する締め切りは絶対に守ってもらいたい。

ただ、世の中にはもっと上がいるもので、僕がお世話になっているお寺で先日、新しい仏様の開眼式があったのだけど、その時のご住職のご挨拶で、

「本日、新しい仏様の開眼式となりました。実はお寺の大事な日に合わせてお願いしたのですが、なかなか完成が伸びて、やっと今日お披露目となりました。まさか約束の日から3年も待たされるとは……」

3年!!!

締め切りオーバー3年!!!

いくらなんでも、3年はひどい!! ここまでの締め切りオーバーは聞いたことがない!!

「いやー、前金でたくさんお金もらったら、なんか仕事する気起きなくなっちゃってさ~」

メガネはいつも指紋でベタベタで鼻毛が伸びている、いかにも締め切りを守らなさそうなおじさんに前金を渡してしまうご住職も人が良すぎる。

しかも、この仏師のおじさん、その3年の間、ずっとお寺に出入りして、座禅会の飲み会や檀家さんの集まりなんかに、いけしゃあしゃあと出席し、いつも楽しそうに酒を飲んでいたのだ。

「まだかな? まだかな? いつになる?って聞いても『いや~ 納得いかなくて』と言われ続けてやっと今日を迎えました」

さすがはご住職だ。徳の積み方が違う……。

僕ならめちゃくちゃ怒っている。

多分、先述の友人もブチギレルだろう。

「いや、流石にもらったお金、全部使っちゃったから、そろそろ働かないとなって思って仕上げました」

納得いかなかったのではなく、手元にお金があったから働きたくなかったのだ。

作れないのではなく、作りたくなかったのだ。

ただ、そんな怠惰な仏師のおじさんが作った仏様は本当に見事で、

閉じていた目が、開眼式後に本当に開いたかのように見えた程の見事な作品。

「すっごいキャバクラとか行ったよね」

作品と人間性は全く関係ない。

素晴らしい作品を作ることが目的ならば、締め切りなんてものは気にしてはいけないと言うことだ。

だから、今月から始まるこのエッセイも面白い文章を書くためには締め切りなんて気にしてはいけないと言うことだ。