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社会派講談の旗手 神田香織(中編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第6回
- 講談

中沢啓治を囲んで。右から二人目に二代目山陽、左から二人目に香織
一時期、絶滅危惧種とまで言われるも、現在、東西合わせて120名を超えるまでになった講釈師。江戸から明治、大正、昭和と、主に男性が読み継いできた芸であったが、平成、令和と時代を経て、女性目線による女性の講談が世に送り出されてきた。その時、講釈師は何を考え、何を読んできたのか。第一線で活躍する女性講釈師に尋ねてみた。(神田香織先生の前編/中編/後編のうちの中編)
『はだしのゲン』から学ぶ平和の重み
『はだしのゲン』は漫画家である中沢啓治が1973年(昭和48年)に発表した、中沢自身が国民学校一年生の時に、広島への原爆投下での実体験をもとにした作品である。主人公の少年ゲンが、父親が遺した「踏まれても踏まれても、逞しい芽を出す麦になれ」という言葉を胸に、戦前、戦中、そして戦後の世の中を生き抜いていく物語だ。近年、図書館などでの閲覧制限問題や、2023年(令和5年)には広島市で使用されている平和学習教材からの削除問題がクローズアップされたことを知っている人も多いだろう。
―今年は、戦後80年です。8月15日を前に『はだしのゲン』をはじめ、思うところをお聞かせください。
香織 私が『はだしのゲン』に取りかかって39年になるんです。世界を見渡してみても戦争が行われていますし、国内を見ても防衛費が増大して、いつの間にか自衛隊の駐屯地も沢山できてしまって、講談を作った当初よりも危機感を持っています。
プーチン大統領もウクライナを相手に核兵器の使用をほのめかしたり、トランプ大統領もイランの核施設を攻撃しました。核というものがどのような影響を及ぼすのかということを世界中の国々が意識していますし、ここにきて核が戦争の抑止力になるということを世界中のトップが言い出していることにも危機感を覚えます。偶発的なことでも、一度核が使用されてしまい、もう核の応酬となったら地球が滅びますし、そうなれば人間だけではなく、自然も環境もすべて消えてしまいます。それを再生するのは並大抵なことではありません。
今やるべきことは、例えば灼熱化した気候変動といったものに、世界中の頭脳が集結して手を打つことではないでしょうか。そうしないと30年後にはもっと気温が高くなってくるし、生き延びるために何をやっていくかということを真剣に考えてほしいですね。そのためには戦争の準備とかに知恵とか税金を投入するんではなくて、当たり前に米や野菜や魚を食べていけるような、そうした世界を守っていくことが第一であると思っています。
私は戦争時代のことを語っていて、今の世の中が戦前、戦中の状況のように思えることが沢山あります。ガザ地区を攻撃しているイスラエルでも、戦中の日本と同じように大本営発表のようなニュースを聞かされて、ガザの現状が伝えられていません。政治的な発言も大切ですが、人道的な立場から、原爆を落とされて、沖縄戦があって、東京大空襲を経験してきた日本が、今やるべき仕事はトップに立つ人がそういうことに気づいて、行動を起こしてほしいということです。そのために昨年、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞したんじゃないかなと思っています。