汗と笑いの物語

入船亭扇太の「お恐れながら申し上げます」 第1回

呉服屋さんとの静かな攻防戦

 私には、お世話になっている呉服屋さんがあるのですが、この呉服屋さんがなぜか頑(かたく)なに洗える着物を作らせてくれません。

 「洗える着物をお願いしたいのですが……」
 「最近、暑いですね」
 「洗える着物を作りたいのですが……」
 「お忙しいですか?」

 と取り付く島もありません。「この反物はどうですか」と、ようやく出されたものは正絹の反物で、洗うことができません。

 「いい加減にして……」と言いたいところですが、色々と安くしてもらっているので強気に出られません。違うお店に変えようかとも考え始めた矢先に、たまに寄席や勉強会に来てくださるようになりました。

 本当にたまに来ます。お店を変えづらい頻度で来ます。しばらく逃れられそうにありません。

 ちなみに、顔に汗をかきにくいといっても、全くかかない訳ではありません。空調や照明、体調の兼ね合いで汗が額を伝うことがあります。こういう時は、大変に困ります。

 普段から噺の途中で汗を拭うことをしておりません。わざわざ汗を拭く稽古もしません。なので、どのタイミングでどのように汗を拭えばいいのか、いまだに分かりません。

 ましてや、手拭いを財布や本として使っている時は悩んでしまいます。

 「財布で拭く訳にもいかないし、放っといたら汗が垂れてくるし。どうしよう?」
 「一度、手拭いを懐に入れたらどうだろう。今やってもいいのかな?」
 「そろそろ汗が目に入りそうだ。手で拭うか。拭った後、どうしようかな?」
 「汗が口に入ってきた。ペッ、ペッ!」

 と考えているうちに、噺を間違えてしまうことがあります。何かコツがあれば、お教え頂きたいです。