二合目 ~塩釜漫遊記
「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第2回
- 講談
松林 伯知
2025/08/27
浦霞で有名な酒蔵、佐浦さんへ
仙台駅から、仙石線で東塩釜駅へ。目的地は……魚市場である。
「塩釜で日本酒に合わせると言ったら、やっぱりマグロだろう!」
ということで、市場で買った海産物をその場でどんぶり飯にのせて食べられる「マイ海鮮丼」で有名な塩釜仲卸市場ならば、宮城の「酒、魚、飯」を堪能することができるだろうという考え。
ウキウキしながら東塩釜駅に降り立つと、なんと外の天気は曇りに曇り、雨まで降ってきての極寒。「さっむ!」と、思わず身をすくませるくらいの天気の変わりよう。タクシーは通らず、バスもちょうど良い時間もなく……しかもよく調べたら、この日は市場も早仕舞いの日。徒歩15分、無理して歩いても、もはや絶望的。
『水戸黄門漫遊記』で、馬に乗るのを渋る伊達綱村(だてつなむら)一行を諭して乗らせた黄門様のくだりを思い出し、「塩釜駅からタクシーに乗りゃよかった……」と後悔しながら、市場行きを泣く泣く断念することに。

中落ちとホタテの美味さが格別だった
「よりにもよって、この天候……。仕事前に酒を楽しもうとするんじゃない!と天がお叱りなのでは……」などと反省しつつ、ひと駅戻って降り立ったのは、本塩釜駅。
「まずは塩竈明神へ、芸道上達と食べ歩き成就を祈願してこよう……」
『水戸黄門漫遊記』を思い出したこともあり、塩竈明神へ参詣に。

すると、縁起のいいことに雨も小降りになり、徒歩で移動するにもだいぶ楽になったから、あら不思議……である。

「よし! それじゃあ、塩釜の酒蔵へ向かうか!」
塩釜で、徒歩で行ける酒蔵といえば、浦霞(うらがすみ)で有名な佐浦さん、そして地元の人からの支持が熱い阿部勘(あべかん)で知られる阿部勘酒造さんの二蔵。近所同士にあることから、日本酒好きはハシゴして回ることが多い。
テクテク歩いて数分、まず先にたどり着くのは佐浦さんである。
時は享保九年(1724年)、塩釜は三浦屋の婿養子にやってきた佐藤富右衛門。独立して酒造りをしようと、佐藤の佐の字と三浦の浦の字をとって“佐浦”の姓を名乗り、屋号を尾嶋屋とし清酒を造って販売しておりました。
その心意気が認められましたか、仙台藩から
「尾嶋屋 佐浦富右衛門、塩竈神社に献上する御神酒酒屋を命ずる」
とのお達し。富右衛門は大喜び。
「有り難き御命、喜んで酒造りに励みまする」
熱心に酒の商いをし、尾嶋屋は清酒屋兼御神酒屋として繁栄、代々続いていく……。
ところが五代目富右衛門の時分、天保四年(1833年)。塩釜を襲った不運が未曾有の大凶作。いわゆる天保の大飢饉。多くの民が飢えに苦しむ姿に見かねた富右衛門、
「蔵の米を出そう! 皆を救うのだ!」
一大決心の末、母親と共に蔵の米を持ち出し、民の救済に奔走したのでございます。
この事を知った仙台藩は大いに感心し、
「尾嶋屋 佐浦富右衛門を大肝入に任ずる」
苗字帯刀を許されるまでの御出世と相成りました。
それから歴代の当主は、酒造りだけでなく、常に塩釜の地の事を考え、私財を投げうっても困難を共に乗り越えるという事を忘れませんでした。
大火が起きた際には持ち山の木を切って復興に役立てる、荒地を開発して宅地を作る、瑞巌寺や塩竈神社の工事の寄進をする……。
「ああ、佐浦さんはなんと立派で有難い、酒もうまいが気風も良い」
かくして塩釜の民に慕われ続ける蔵となり、益々の御繁盛。
後に「浦霞」が誕生してからは全国でも知られ愛される事となりました。「浦霞」で有名な酒蔵・佐浦の由来の一席。
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