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〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回

〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)

衝撃のラストとともに親子愛を描いた物語。右は文中に登場するブックカバー

笑福亭 茶光

執筆者

笑福亭 茶光

執筆者プロフィール

壊れゆく絆と親子の愛

 家の本棚にあったので、「買ったまま、読むのを忘れてたのか」と何の疑いもなく読み進めた『悪いものが、来ませんように』(芦沢央著)。

 紙のブックカバーが邪魔なので、クシャッと丸めてゴミ箱に捨てると、妻に「それ、私が買った本で、私の買ったブックカバーなんだけど」と道端で裏返しになり、微かに動くセミを見るような目で指摘され、人生で初めてゴミ箱に捨てたブックカバーにアイロンを当てることとなった。

 そのせいで途中、気もそぞろになってしまったが、これは気もそぞろで読んではいけない。読み物としてのトリックが詰まった一冊だった。

 主人公の紗英と奈津子は、お互いに「依存している」とも言えるほどのかけがえのない関係。紗英は子供ができないことを悩み、周囲には内緒で不妊治療を続けている。夫の大志は、不妊治療に協力はしつつも、前向きとは言えない。会社の同僚と浮気関係にあり、そのことにも紗英は頭を悩ませている。

 奈津子も夫婦や人付き合いなど、他人とのコミュニケーションを上手く取ることができないことに悩みを抱えている。

 紗英と奈津子は唯一心を開き、信頼できる関係なのだ。そんな二人の関係を一件の殺人事件が大きく歪めてしまう。

 前半、読み進めると妙な違和感がある。どうも話がしっくりこない箇所があるのだ。ところがそれには理由があり、その秘密が明かされると、物語の辻褄が合うという見事な構成。小説というスタイルだからこそ、成立する驚き。

 もちろん読者を驚かすトリックだけが、この小説の見どころではない。親と子の愛が物語の軸になっている。

 私にも小学2年生の息子がいる。私は日々、息子に愛情を注いでいるし、そんなことは当たり前だと思っているが、彼はどう思っているのだろうか?