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となりは鼻うがいをする人ぞ

「マクラになるかも知れない話」 第三回

高座で、まさかの本気泣き?

 というわけで本題。「○○の秋」。

 親愛なる読者諸兄が思い浮かべる○○の秋は、何か? 三遊亭萬都(穏やかな青年)としては、「寒暖差の秋」としたい。

 今年はまた、例年に輪をかけてひどい。寒暖差で体調を崩す方が多い。近頃では、ダイレクトに寒暖差アレルギーという言葉もしばしば耳にする。寒暖差のおかげで「夕焼けがきれいに見える」という話も聞いたことがあるが、ちょっとデメリットの方が勝っているようにも思う。

秋は空気が澄み、湿度が低いため、太陽光が散乱しやすく、赤や橙の光が鮮やかに見えるらしい……

 噺家は、鼻風邪・喉風邪を大敵としている。人前でおしゃべりをして、幾ばくかのお賃金をいただこうという弊商売。鼻が詰まっては聞き取りにくく、喉を痛めていては声は通らない。風邪ひとつで窮地に陥る、なんと儚(はかな)き弊商売。

 一度、鼻風邪を引いたために仕事中、つまり人前で落語をしているときに、どうしてもクシャミが出そうになり、我慢したら鼻の奥でクシャミが暴発。鼻水と咳が止まらなくなってしまったことがある。

 しかし、ちょうど『お見立て』という後半に登場人物の一人が泣きじゃくる噺だったので、意外とおしまいまで問題なくできた。

 後で、お客様から「気合いの入った高座だったねえ。あの泣きじゃくりよう、杢兵衛大尽(もくべえだいじん)の花魁(おいらん)への思いが伝わったよ!」と言われた。少し沈黙し、「それは良かったです」と答えた。