NEW

となりは鼻うがいをする人ぞ

「マクラになるかも知れない話」 第三回

わしゃゴリラか!

 そう思いながらも、やはり私にも噺家としての矜持(きょうじ)がある。

 私のような者のためにも、落語会に足を運んでくださるお客様がいる。三遊亭萬都(穏やかな青年)の噺を聴こうと、時間とお金を割いてくださるお客様がいる。ならば、この苦しみも甘んじて受け入れよう。それがこの吹けば飛ぶような芸人の矜持であり、意地である。

 と思って続けていたところ、ある日、はたと気がつきました。

 ――強すぎるんだ。

 鼻うがい用の粉薬をぬるま湯に溶いて、それを専用のボトルに入れ、ボトルの丸いストローのようになった蓋の先端を鼻の穴にあてがって、ボトルを握ることで、鼻の内部に水を送り込む。

 そして、このとき、ボトルをゆっくりと押しつぶしていけば! ゆっくりと! 静かに! 水は鼻の中に供給されるのだ! そうすれば! 全然痛くない! むせない! 変な水が後から出ない! ゆっくりと! 静かに! ボトルを握るべきだったのだ!

 握りつぶしていた……全力で!

 私はなぜか、ボトルを完全に全力で一息に握りつぶしていた。なぜだ、なぜなんだ。わしゃ、ゴリラか。ゴリラか、わしゃ。

 ゴリラは、その強靱な握力ゆえに力加減を間違えて、手に持ったものを意図せず握りつぶしてしまうことがあると聞く。じゃあ、わしゃゴリラや。

 三遊亭萬都(穏やかなゴリラ)や。

 もちろん、水はものすごい勢いで噴出し、その激流は私の鼻の内部を駆け巡っていた。なんなんだ。どういう勢いで鼻の中に水を送り込んでいるのだ。もう鼻うがいどころではない。脳でも洗う気なのか。

 どうも苦しい苦しいと思ったら、毎晩、洗面所で溺れていたのだ。

 ゆっくりとボトルを握るようになってからは、それはそれは快適な「鼻うがいライフ」を過ごしている。娘も近寄ってきてくれる。ありがたいことだ。せめてこのような被害者は、私で最後にしたい。

 親愛なる読者諸兄は、適切な量、適切な方法、「適切な握力」を守って、快適な鼻うがいライフを送ってください。

 以上、三遊亭萬都(穏やかな脳洗いゴリラ)でした。

 

絵:三遊亭萬都

三遊亭萬都公式サイト

https://3utmanto-official.amebaownd.com/

(毎月25日頃、掲載予定)