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〈書評〉 笑辞典 落語の根多 (宇井無愁 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第6回

東京と上方、噺の違いが物語る文化のギャップ

 東京から上方に移された11の噺を見ると、大名が出てくる「妾馬」など、武士のネタが多いことに気づく。

 「妾」の読み方は東京が「めかけ」で「めかうま」、上方が「てかけ」で「てかけうま」である。これを称して、東京では目を掛け、上方では手を掛けるという。大名が町人の娘を側室にして、兄貴が挨拶にくるという話だ。商人の勢いが強い上方では、どの程度受けたのだろうか。

 「妾馬」以外の武士物も、町人をからかって遊ぶ御家人に仕返しをする「石返し」や、花見の場に抜刀した侍が乗り込んでくる「花見の仇討」など、江戸が武士の街であったことを窺わせる内容になっている。

 このほか「おしくら」、上方の「三人旅浮かれの尼買い」の項を見ていたらまた発見があった。宇井の言を引用すると「上方落語の東の旅シリーズには、どういうわけか女郎買いの咄が一つもない。計画的に編まれたシリーズではなく、既製品をよせ集めた結果そうなったのだと思うが、これが欠点といえばいえる」「一方東京製の旅の咄シリーズは、女郎買いの連続である」「上方落語はこの一席を拝借して、全篇の欠をおぎなったのではあるまいか」というのである。

 なんだか東京人は女郎買いが大好き、と言われているようで複雑な気持ちになる。たしかに東京の遊廓と上方の茶屋遊びとでは同じ目的の行為を描きながら前者の方がより直接的に見える。だから道中物には入らなかったのかもしれず、東京落語から拝借、ということになったのかもしれない。指摘されなければ気がつかなかったことで、考えさせられた。