2025年11月のつれづれ(浪曲シネマ劇場、大利根勝子の登壇、真山隼人の奮闘、注目の公演)

月刊「浪曲つれづれ」 第7回

真山隼人と沢村さくら、東根市に刻んだ歴史の一夜

 私事ながら、この一月には東京以外の場所で二度、真山隼人を聴いている。一回は山形県東村山郡の噺館(はなしごや)であった。真山隼人の相三味線・沢村さくらは同県東根市の出身であり、凱旋興行にもなった。

 10月11日に実現した公演では、没後300年になる近松門左衛門の「傾城反魂香」ネタおろしが行われた(土井陽児 台本)。「傾城反魂香」は、現在の歌舞伎では通し狂言として上演されることがほぼなく、この日の第2話にあたる「浮世又平」が掛けられるのみである。あらゆるジャンルを含めて通しで演じられるのは数十年ぶりとのこと。長い話を4話に濃縮した形で隼人は演じ、見事に作品世界を醸しだした。

 このあと、10月18日大阪・山本能楽堂、10月19日名古屋・大須演芸場を経て、11月24日の浅草木馬亭で全国公演が完結する。

山形で凱旋公演!(撮影・阪田裕規)

 もう一回、隼人を東京以外で聴いたのは、兵庫県神戸市の喜楽館公演であった。神戸市唯一の寄席定席である。阪神電気鉄道が開業120周年を迎えるのを記念し、「兵庫県民ウィーク」が喜楽館で開催された。その中でトリ前に真山隼人・沢村さくらが出演し、「阪神電車物語」を語ったのである。

 大阪・梅田駅から阪神電車に乗り込んだ二人組が新開地駅に到着して喜楽館を訪れるまでを7日間連続でお届けするという趣向だ。もちろんネタおろし、しかも7日間連続だ。高座に上がった隼人は開口一番、この数日間で3キロ痩せました、と言って観客を笑わせた。喜楽館のような落語の寄席で、しかも深い上がりで浪曲が出番を貰ったことにには意味がある。

 大変だったかもしれないが、今後につながる出演だったと思う。