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優しさと知性で物語を紡ぐ 田辺一邑(中編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第19回
- 講談
連続講談への取り組み
ここで、〈今の若手は勉強の場が沢山あって、うらやましいなあと思うことがあります〉とあったが、ここ数年、講談の会が確かに増えてきている。以前は情報誌の『東京かわら版』でも、「講談・浪曲・新内」が一括りで別ページ。掲載情報をすべて合わせても、見開き2ページに収まる程度であった。それが今や……。
次に昨今の取り組みについて尋ねた。
―― 先生は「連続講談勉強会」(お江戸両国亭)を主催されていますが、どういった経緯で始められたんですか。
一邑 本牧亭主催の「新鋭講談会」という連続講談の会があります。私も池之端(本牧亭)の頃、二ツ目の時からお世話になって、『お富与三郎(おとみよさぶろう)』や『妲己のお百(だっきのおひゃく)』、『左甚五郎(ひだりじんごろう)』、『徳川家康』を読みましたが、そこを卒業することになって、連続物の勉強ができるようにと始めました。今は「連続講談勉強会」も卒業しましたが、『西行』、『甲斐勇吉』、結城秀康が登場する『越前騒動』、『田沼刃傷(たぬまにんじょう)』といろいろ読みました。
―― やはり、連続物は読んでいて楽しいですか。
一邑 連続物は体力が要ります。講釈師としての基本的な筋トレのようなものと言えばいいでしょうか。物語の全編が面白い訳ではありませんし、せっかく取り組んで覚えても、次に使えないこともあります。ですが、今はもう使わない語彙(ごい)や表現が出てきて、それをそのまま使うか、今風に直すかを考えたり、読み手として歴史的背景を知る必要もあるので、それを調べたり、登場人物にしても、武士と町人は異なったりと、その演じ分けも求められます。そうした意味でも勉強になりますね。
――『甲斐勇吉』は墨亭でも読んでもらい、大変に面白かった。
一邑 あの続きはどんどん荒唐無稽になっていくんですよ。アメリカに行って、ボクシングと柔道の試合をしたり、最後なぜか画家になってヨセミテにスケッチ旅行に行くという……。あの話は邑井貞吉(むらいていきち)先生の体験談も入っているのではないかと思ってます。
―― 確かに、貞吉先生は海外に行っていますから。墨亭で、ぜひ続きをお願いします。先生は他にも新作講談も沢山読まれていますね。
一邑 必要に迫られて作ることが多いんです。
名前のあがった邑井貞吉は四代目で、先年旅立った一龍斎貞水が講談界に入るきっかけを作った一人で、話を多く教わったことでも知られている。その経歴を紹介しよう(前出、拙著「講談事典」より、一部修正)。
本名・相川喜太郎。明治12年(1879)10月28日、山梨県甲府市の生まれ。妻は娘義太夫の竹本東猿で、弟は邑井吉弥。明治28年に三代目邑井貞吉に入門し、吉弥。三代目貞吉没後はその父邑井一につき、明治38年10月に四代目邑井貞吉を襲名した。二度にわたる渡米経験(大正5年(1916)と同15年にアメリカとハワイ)から世界情勢を講談に取り入れたり、村上浪六作の『当世五人男』をはじめとした明治期の文芸物、古典作品では『三国志』に『日蓮記』。音にも残す『正直車夫』などを得意とした。温厚篤実な性格から戦後の講談界のまとめ役として、長く講談組合の頭取(会長)を務めた。昭和40年2月11日没。
なお、『甲斐勇吉』は講釈師でもあった細川風谷(源太郎)の作で、そのあらすじは和歌山の士族であった甲斐勇吉が上京し、以前、勇吉に助けられた男嫌いの芸妓梅吉が一目惚れ。実は梅吉は甲斐勇吉の許嫁であったことから二人は夫婦となり、サンフランシスコに渡って幸せに暮らすという物語で、近年では六代目一龍斎貞丈が読んでいた。
(以上、敬称略)
▼講談師 田辺一邑 公式ホームページ
▼田辺一邑(講談協会 公式HP)
(12月1日公開予定の「後編」に続く)
追善の講談会(昼の部・夜の部)はこちら。

新宿講談会
田辺一鶴十七回忌追善興行
〈昼の部〉
- 日程:
- 12月18日(木) 開場12:30 開演13:00
- 会場:
- 新宿永谷ホール(Fu-)
(新宿区歌舞伎町2-45-5 新宿永谷ビル1F) - 出演:
- 田辺凌々
- 田辺一記・宝井一凜
- 「三方ヶ原軍記」(車読み)
- 田辺鶴遊「生か死か」
- 田辺南北「お楽しみ」
- 田辺銀冶「東京オリンピック」
- 田ノ中星之助「瞼の母」
- 宝井琴梅「名月若松城」
- 料金:
- 予約2,800円 当日3,000円
- ご贔屓連2,000円
- 詳細・予約:
- 講談協会 公式ホームページ
- →新宿講談会 昼席

新宿講談会
田辺一鶴十七回忌追善興行
〈夜の部〉
- 日程:
- 12月18日(木) 開場17:30 開演18:00
- 会場:
- 新宿永谷ホール(Fu-)
(新宿区歌舞伎町2-45-5 新宿永谷ビル1F) - 出演:
- 田辺凌々
- 田辺凌天・田辺いちか
- 『三方ヶ原軍記』(車読み)
- 田辺凌鶴『高野長英』
- 桃川鶴女『瓢箪屋政談』
- 田辺一乃『東京オリンピック』
- 田辺一邑『英国密航』
- 田辺鶴英「田辺一鶴物語」
- 料金:
- 予約2,800円 当日3,000円
- ご贔屓連2,000円
- 詳細・予約:
- 講談協会 公式ホームページ
- →新宿講談会 夜席
―― 瀧口雅仁『釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編』シリーズ連載一覧