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2025年12月のつれづれ(天光軒新月・五月一秀二人会、京山幸太・東京独演会)

月刊「浪曲つれづれ」 第8回

心斎橋角座、奇跡の一夜

 24日は、まずネタおろしの「山椒大夫」から。この物語は、森鴎外によって小説化されていることでも知られるが、元の説経節は凄惨である。人身売買を扱った話なので、思わず目を背けたくなるような場面もある。そこから目を背けず、人間の宿業を新月は語り切った。

 ゲスト・三原麻衣の「命果てるまで」(曲師・藤初雪)を挟んで、次は一秀が「富島松五郎伝」をかける(曲師同じ)。岩下俊作『無法松の一生』は小倉を舞台にした名作小説で、映画化もされている。浪曲化は別の作家によっても行われているが、一秀の「富島松五郎伝」は自身で原作を読みこんで台本を書き上げたオリジナルである。善人だが無学な松五郎が近代化の動きから疎外される哀しみを見事に描いた演目だ。

 トリを飾ったのは、浪曲五説経から「和泉信太の白狐伝」である。新月を弾いたのは二席とも虹友美だったが、この一席では弟子の虹かなえが付き、二丁三味線の態勢となった。新人のかなえは主にベースの役割をし、聴かせどころのバラシでは友美がさすがの腕を見せる。予告なしの二丁三味線だったので、思わぬ拾い物だった。そして新月の口演は、過去聴いた中でも最上の出来映えで、葛の葉と保名・晴明父子の心情が声によって見事に表現された。三味線が後押しして生まれるグルーヴ感が圧倒的で、終演後には観客が皆、上気したような表情になっていた。この日、心斎橋角座に居合わせた人は幸せだった。

 これだけの演目、関西圏だけのものにしておくのはもったいない。ぜひとも関東や、他の地方でも公演を実現してもらいたいものである。