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2025年12月のつれづれ(天光軒新月・五月一秀二人会、京山幸太・東京独演会)

月刊「浪曲つれづれ」 第8回

関西の新鋭、ついに東京へ

 関東進出と言えば、国宝・京山幸枝若の惣領弟子である京山幸太が、初めて東京で自主公演を行った。「京山幸太 東京独演会 -切先-」が開催されたのは11月23日、場所はお江戸両国亭である。幸太はこれまで町田康原作の『パンク侍、斬られて候』浪曲化を手がけるなど、挑戦的な舞台をいくつもこなしてきた。最近は源氏物語の浪曲化にも挑んでおり、その姿勢は常に尖鋭的である。

 ただ残念ながら、活動の舞台が関西圏に限られているため、それ以外の地域ではなかなかその勇姿を拝むことができなかった。今回は、一念発起をしての関東進出である。両国亭は超満員、次回の東京公演は2026(令和8)年5月17日と発表されたが、11月23日のリピーターだけで半数近くが埋まったそうである。それだけ満足度の高い会であった。

 この日は「三変化で魅せる」と題して三席、初めに天中軒かおり・伊丹秀勇の前読み「琴桜」があり、「血煙荒神山アナザーストーリー『任侠ずラブ』」(石山悦子作)で幕が開く。これは清水次郎長伝の一作をボーイズラブ的に脚色したもので、現在、町田康が『男の愛』として同作の長篇化を行っているのにも通じる。

 次は「源氏物語『葵』」(脚色・京山幸太)である。光源氏への嫉妬に駆られた六条御息所の生霊が正妻・葵の前を取り殺そうとする展開で、最も知名度の高い巻であろう。これをどのように浪曲化するのかと興味津々で聴いたが、思いがけない演出で驚いた。「もっともウザい光源氏」と最初に宣言してから始まる。たしかにその通りで、こんなにひどい光源氏は他で見たことがない。しかし、恋に生きるという美名はともかく、女をとっかえひっかえしている行為は現代の倫理感覚からすればひどいとしか言いようがないわけで、正しい解釈とも言える。この話に限らず、幸太の浪曲は現代の感覚がうまい具合にブレンドされているのである。

 最後は古典から忠臣蔵外伝「大石と垣見」でお開きに。良い会であった。