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12/17は、飛行機の日 →初フライトでCAさんの神対応に震えた男の純真

「エッセイ的な何か」 第7回

安全な飛行機と、危ない僕

 そして月日は流れ、僕と飛行機との出会いは、入門して数年後。

 忘れもしない、金沢への仕事であった。新幹線が開通している今となっては、羽田~金沢の空路はかえって時間がかかってしまいそうな気もするが、その時は最短の手段だったのだろう。初フライトの緊張でガチガチになっている僕(多分にあの先生のせい)に、先輩師匠は真顔で言った。

 「いいか、万が一の時のために、油性ペンで身体に名前を書いておけよ」

 ……なぜ僕の周りは、『万が一』という言葉を用いてピュアな少年をたぶらかす大人だらけだったのだろうか。ええ、今はもう分別のついている年齢だと自負しておりますので、ハッキリ申し上げます! 飛行機は世界で最も安全な乗り物です!

 だが、その時は未知の交通手段。怯える僕に畳みかける先輩師匠。

 「あと、入り口でCAさんに『お願いします』と言って、履いている靴を渡すんだぞ!」

 いま思うと、明治時代に初めて陸蒸気に乗った人が取った行動と何ら変わりがないのだが、嗚呼、なんとあの頃の僕のイノセントだったことよ。飛行機に下足番がいる道理がないだろう。昔の寄席じゃないんだから。

 しかし、その言葉を盲信し、言われた通りに元気良く「お願いします!」と履いている靴を手渡す僕。その不審者に対して、ニッコリ微笑んだCAさんが一言。

 「お気持ちだけ」

 ……どうですか、この言葉のチョイスの絶妙さ! つくづく今思い出しても痺れますね。こんな奇天烈な行動を取ってきた輩に対して、この対応はまさしくプロ。もしくは、僕からのきったないプレゼントだと思われたのだろうか。ともかく、知らないということは恐ろしい。

 そんな僕ですら、生意気にも今ではすっかり慣れた旅人、気取り。もうCAさんに靴を脱いで渡すこともない。……まあ、未だにこの年で渡してたら、いよいよ通報されるか。