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〈書評〉 香盤残酷物語 落語協会・芸術協会の百年史 (神保喜利彦 著)

「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第8回

香盤が語る真打昇進の真相

 前回の「芸人本書く派列伝クラシック」で八代目桂文楽の『あばらかべっそん』(ちくま文庫)を紹介した際、五代目柳家小さん襲名にまつわる騒動があったことにも言及した。文楽が信念を貫いたことで香盤関連が紛糾する。いったん収まったかに見えても何かきっかけがあればこじれた感情は再び燃え上がり、新たな禍根を残す。遺された香盤にはそうした揉め事の痕跡が見事に刻み込まれている。

 前述した古今亭志ん朝の真打昇進は、1962(昭和37)年3月下席のことである。「志ん朝は36人抜きをした」と言われるが、そんなに「飛ばせる人材がいない」と神保は指摘し、実際に誰を抜いたのかを列挙する。いずれも当時の名前である。

 以上21人で、廃業した者を入れても36人には程遠い。これは、後年の春風亭小朝の36人抜きとごっちゃになったものが検証されないまま通説として流布してしまったのだろう、と神保は推測する。そういえばそうかもしれない。

 春風亭小朝の真打昇進は、1980(昭和55)年5月上席である。このとき抜いた36人も書き出しておこう。これも当時の名前だ。

 人間国宝も含め、現代落語界の重鎮たちが顔を並べていて壮観である。1980年には私も落語少年のはしくれだったので、当時の騒ぎというものははっきり覚えている。こうした具合に誰が誰を抜いて真打になったか、ということが毎回明確に書かれており、そうした記述にぶつかるたびに、書き出された名前の一つひとつを玩味しながら見てしまう。