〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
掲載記事300本記念
- 落語
話楽生Web 編集部
2026/01/25
2020年10月31日、よみうり大手町ホールにて(撮影・武藤奈緒美)
2025年5月1日にスタートした「話楽生Web」は、今回の掲載をもって記事数300本となりました。この節目を記念し、落語協会会長であり、文化功労者でもある、柳家さん喬師匠にお話をうかがいました。
1967年(昭和42年)4月23日、人間国宝・五代目柳家小さんに入門し、来年で噺家生活60年を迎えます。寄席では1月二之席まではお正月ということで、まずは入門当時のおめでたい正月風景を振り返っていただくことから、3回にわたるインタビュー連載を開始します。(前編/中編/後編のうちの前編)
取材:文=渡邉 寧久(演芸評論家・エンタメライター)
撮影:話楽生Web 編集部
五代目柳家小さん一門の年明け
正月。落語家は気分も新たに、正月飾りで彩られた高座へと向かう。元旦、弟子が師匠宅へ年始のあいさつにうかがい、そのまま大師匠宅へ向かう一門もある。ずっと昔から伝えられてきた、古き良き習わしである。世の中全般は、1月5日前後の仕事始めを境に正月気分が日常モードへと切り替わるが、寄席演芸人の正月気分は初席(1日~10日)、二之席(11日~20日)と続いていく。
長い間、年頭の清々しさを、前座、二ツ目、真打、そして落語協会会長として、その都度味わってきた柳家さん喬師匠は、しみじみ振り返る。
「自分ではこんな長い間やってきた気はないんですよ。でも、弟子入りしたのが18の時ですからね、もう60年近くですか。還暦の噺家、いくらでもいますよね」

五代目柳家小さん一門は、大所帯だった。直弟子だけで25人以上。ほかの門下や落語芸術協会からの移籍組、色物芸人を含めると一門は50人にも及んだ。彼らが一同に集う正月。弟子は粗相のないように働き続ける。
「正月の準備は、大晦日から。おかみさん(小さん夫人)のご命で正月の支度をしましたね。お雑煮を60人分ぐらいこしらえて、お酒も準備して。
あの頃は、出入りの方々が『お正月に使ってください』って、お魚や野菜などを差し入れてくれたので、それで準備しましたね」
小さん師匠の弟子は内弟子が基本だったが、さん喬師匠の入門時はすでに前座・二ツ目合わせて8人の兄弟子が住み込み、ひしめき合っている状態。東京・本所吾妻橋生まれ育ちのさん喬師匠(前座名は柳家小稲)は通いの弟子として修業を始めた。
いつもは帰宅できていたが、大晦日だけは別。徹夜だった。元旦の一門の集合場所になるのは、小さん師匠が愛した自宅の剣道場。常時、二組が同時に試合できるスペースがあったという。
「そこにテーブルをずらーっと並べて、酒肴の準備。道場の壁には、師匠の真打昇進の時の後ろ幕を全部張るんです。電車(JR、当時は国電)は終夜運行していましたから、明け方になると一門の弟子たちが黒紋付でやって来る。
本来なら『おめでとう』って言いそうですが、お互いに『よ、おめで……、ああ、おはよう』って、朝、師匠が道場に降りて来るまでは、じーっと座って世間話をしているだけ。
師匠が『おめでとう』って言うまでは、誰も『おめでとう』って言っちゃいけない決まりがありましたね」
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