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3月5日は、スリランカカレーの日

「かけはしのしゅんのはなし」 第10回

 インドカレーのお店の思い出は、ほかにもありますね。

 学生時代に宝塚歌劇団を観ていたときに、日比谷シャンテにあった「ひつじや」さんに必ず通っていました。当日券狙いで、始発で東京宝塚劇場に行っていたので、たとえチケットが取れなくても「ひつじや」さんのカレーを食べるということで、自分は有楽町にランチをしにきただけだと言い聞かせていました。

 柳橋一門の兄さん方にご挨拶したのも、インドカレーのお店でした。当時、前座の弁橋兄さんがお店を予約して、師匠とお女将さん、柏枝師匠、橋蔵兄さん、弁橋兄さん、かけ橋の6人で食事をしたことを覚えています。人生で五本の指に入るぐらい緊張しました。

 皆さんが緊張している私を優しく迎えてくださり、食事をしながら、話題は2週間後の私の楽屋入りの時期となりました。

 「6月だと、もう浴衣だな」と師匠が言いました。私はそこで初めて知りました。6月になると、寄席の楽屋では前座が浴衣を着るのですが、落語協会は高座に浴衣で上がってはいけないため、主に高座返しを担当する香盤が下の前座は“着物”を着ています。しかし、落語芸術協会は香盤や担当の仕事に関係なく、“浴衣”を着るとのことでした。

 『これはマズい……』と内心、慌てました。家には、落語協会の浴衣しかなかったのです。「芸術協会で一からやらせていただきます」と頭を下げている前座の背中に、大きく染め抜いてある『落語協会』の4文字は差し障りがありすぎます。各所に失礼になってしまいます。

 でも、楽屋入りまで残り2週間で浴衣を仕立てることはできません。ここは素直に相談するしかないと恐る恐る師匠に向かって

 「楽屋では、下の前座も着物ではなく、浴衣で働くことを知りませんでして、家には落語協会の浴衣しかないのですが……」と言うと、先ほどまでニコニコと笑っていた師匠の眉間にピキッとシワが入ります。

 「落語協会の浴衣……」

 腕を組みながら、険しい顔となった師匠。その後、ぽつりと呟きます。

 「……ウケるんじゃねぇか」

 みんなドカーンと笑いました! 私はそのひと言で、なんだか肩の荷が少しおりた感じにもなりましたし、本当に凄い方だなと感動すら覚えました。そこから私の体型に合う人に連絡をして、浴衣をいただけることになり、事なきを得ました。