第四話 「初心者よ永遠なれ」

「令和らくご改造計画」

第四話 「初心者よ永遠なれ」

絵:大熊2号

三遊亭 ごはんつぶ

執筆者

三遊亭 ごはんつぶ

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#1

 よく、「落語初心者はどこへ観に行くのが良いですか?」という質問を受ける。

 これに対する答えは、実のところかなり難しい。なぜなら、『落語入門』というコンセプトのイベントそのものが、いまの落語界にはほぼ存在していないからだ。

 寄席の高座は、常連向けに磨かれており、初心者には少し難しい可能性がある。お寺などで開催される地域向けの小規模な落語会には、常連・演芸ファンの割合が少ない。そこでは初心者向けに丁寧な解説が挟まることもあるが、そういった会の開催情報は地域にのみ発信され、オンラインでは見つけにくい。

 内容として一番良いのは学校寄席だ。これはとても親切な解説がつくが、外部の人は入れないので、もちろんダメだ。

 つまり、落語を「初めて観よう」とした瞬間、人はどこにも行き場を失うのである。落語が廃れてしまうかもしれないと嘆くわりに、この瀬戸際で『初心者が安心して向かえる場所』がない。「新規ファンを増やす」ことを、業界を挙げてやっているとは言いがたい。

 たとえば歌舞伎なら『鑑賞教室』という名目で定期公演がある。

 私も過去に何度か行ったが、一からの初心者を置いていかない、わかりやすく馴染みやすく、しかも歌舞伎の面白さや品格までちゃんと伝えてくれる、非常にバランスの良い内容だった。

 やはり『鑑賞教室』『初心者向け』と書いてあれば、初心者も気軽に参加できる。新規ファンも獲得しやすいだろう。

 しかし、落語にはこれがない。

 そのようなワードで検索しても、おそらくヒットはゼロ件。あったとしても「単発」ならば、たまたまそのタイミングで落語に興味を持った人しか参加できない。それでは広がらない。

 初心者向けイベントに「定期公演」はマストなのだ。『いつでも 初心者が 安心して』参加できる落語イベント──少なくとも東京では聞いたことがない。

 けれども、そもそも落語はそこまで難解な芸でもない。「ちょっと」難しいだけだ。言葉は難しくないが、ときどき知らない固有名詞が出てきたり、お馴染みの登場人物・設定の説明が省略されているだけ。案外、なんとなくなら知識ゼロでも楽しめる。

 だからこそ、業界はそこに甘えているのだろう。

 「初心者もなんとなく楽しめるだろうから、わざわざ歩み寄らなくても大丈夫、大丈夫……」

 ──果たして本当にそうだろうか。