私はもっとかっこいいはずだ。

柳家さん花の「まだ名人になりたい」 第2回

寝違えたジェームズディーン

 思い返すと高校生の頃、濡れている時の自分の見た目に自信があった。

 朝ウチを出る時は曇りで、学校に着くまでの間にサァーっと雨が降り出した日があった。私は傘を持たずに家を出て、雨に濡れながら学校に来たのだ。

 するとどうだろう、同じクラスの女生徒が「今日ちょっといいね」と言ってきたのである。それだけではない。口の悪い男友達までが「角度によってはジェームズディーンに似てる」と言ってきたのだ。

 その当時の私は、老け顔の大男で、あだ名は「親方」である。それが雨に濡れるとあら不思議、ちょっと様子のいい男。角度によっては、ジェームズディーン。

 そこは私も思春期真っ只中、それまで方向性の定まらなかった私の自意識は強烈な影響を受けた。

 雨が降るのを心待ちにし、朝から土砂降りでも傘を持たずに登校し、あんまり晴れが続こうものなら朝シャワーを浴びて、できるだけ拭かずに出かけるくらいのものだった。

 学校に着けば、角度である。私のジェームズディーンのイメージは、顔を少し左に傾け流し目をしている形だ。教室に入ってから下校するまでそれをやった。

 ずぶ濡れの大男が寝違えた様子で遠くを見ているのだ。すると徐々に褒めるものはいなくなり、かといってからかわれもせず。異様なのに無味乾燥。自意識過剰なのに黄昏れてる。

 やがて肌寒くなる頃に我に返った。ジェームズディーンは、雨乞いなどしない。