入門前夜
「二藍の文箱」 第1回
- 落語
三遊亭 司
2025/06/02
落語の神様
その談志師匠の著書で、三代目桂三木助を知ることになり、落語の描く人間の面白味のほかに、落語のもつ美学に触れることになる。それは江戸っ子の美学であり、東京人のもつ美しさ。そして、三代目の実子である四代目桂三木助には、その東京人特有の照れと繊細さがあった。それを結局、18歳のわたしは理解し切れずに勘気をこうむることになるのだが。
華やかさの陰に、そのような繊細さや照れがあり、それがキュートさにつながるのが魅力の藝人だった。
そんな師匠に弟子入りを志願しようと、当時はあたりまえのように刊行されていた芸能人名鑑に師匠の事務所の住所を探した。事務所というぐらいだから事務員やらマネージャーがいて、ひとまずおはなしだけでも聞いてもらおうと、住所を頼りにいざ行ってみると、事務所とは名ばかりで「桂三木助」の表札があった。
きょうは見つからないかも知れないな、と、田端の駅を降りて5分後のこと。
「待てよ、同姓同名ってこともあるか」
そんな名前、あるわけがない。
「もう少し探してみるか」
だから、表札に名前があるじゃないか。
「よし、自宅がわかっただけでも大変な前進だ、きょうは帰ろう」
と、田端の街を半日歩き、公園のベンチに座り、また駅へと向かい歩いていた。なんて意気地のなさなんだろうと、笑ってもらえたほうがむしろ救われる。だが、あの日が27年後のわたしにつながるはじめの一歩ではじめの一日だった。
わたしたちは、落語や師匠に愛されてこの世界に入ったわけでは決してない。師匠や落語を愛してこの世界にやってきた。それを深く思うに至ったのは、師匠桂三木助との二度の別れであり、師匠三遊亭歌司との出会いだ。このふたりの師匠から頂いた縁で、一門や楽屋の先輩後輩たちに導かれ、後押しされて、いまわたしはここにいる。
きょうも落語をどれだけ愛せたか。毎日、落語を授けてくれた、あの日の神様にそう訊かれる。よし、あしたもその手に落語を預けおく、ゆめゆめ手放すでないぞ、善哉善哉。こうして、きょうもわたしは落語家でいられる。
だから、やっぱり、神様わたしに落語を授けてくださりありがとう。
▼三遊亭司 X
▼三遊亭司 note
(毎月2日頃、配信予定)
第2回はこちら
こちらもどうぞ(三遊亭司師匠の思い出の味を綴ったエッセイ)
いま読まれています!
「ずいひつかつどお」 第9回
ぼくはさんさい
~祝・真打ご昇進! 談寛ワールド満開、春の出世噺!!
立川 談寛
2026/03/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第33回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第31回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第32回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/29
「テーマをもらえば考えます」 第8回
鼻とカフンと私
~笑えてちょっと切ない「花粉症あるある」が止まらないエッセイ
三遊亭 天どん
2026/03/30
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第10回
同郷熊本の小学校の先輩! 三遊亭ふう丈 改メ 二代目円丈師匠真打昇進襲名披露パーティー
服部 拓也
2026/03/22
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々の舞台裏
三遊亭 司
2026/03/02
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「ずいひつかつどお」 第8回
だあるまさんだあるまさん
~毎日がアップアップ
立川 談寛
2026/01/29
「二藍の文箱」 第1回
入門前夜
~神様わたしに落語を授けてくださりありがとう
三遊亭 司
2025/06/02
「浪曲案内 連続読み」 第10回
新釈浪曲忠臣蔵 ~202X年赤穂の旅
~忠臣蔵は難しい? そんな先入観を覆す浪曲コラム
東家 一太郎
2026/03/24
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第31回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/28
「すずめのさえずり」 第九回
余興について
~落語家だらけの宴会で繰り広げられる、笑いのサバイバル!
古今亭 志ん雀
2026/03/26
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第32回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/29
「テーマをもらえば考えます」 第8回
鼻とカフンと私
~笑えてちょっと切ない「花粉症あるある」が止まらないエッセイ
三遊亭 天どん
2026/03/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第33回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/30
「べべログ 心がホワ~ンとするグルメ」 第6回
ニンニク焼肉定食 / 千葉県成田市「食堂米倉」
~誘惑に負け、大盛を完食。柔らかいお肉と甘くて濃厚なニンニクダレが絡み尽くす至福の時間
笑福亭 べ瓶
2026/03/27
「マクラになるかも知れない話」 第八回
カフンを待ちわびて
~落語家の身体に宿る謎の能力!?
三遊亭 萬都
2026/03/25
「エッセイ的な何か」 第10回
3月8日は、餃子の日 →無茶苦茶、食う男の偉業
~柳亭痴楽師匠と名古屋『百老亭』の思い出
三笑亭 夢丸
2026/03/23
「ずいひつかつどお」 第9回
ぼくはさんさい
~祝・真打ご昇進! 談寛ワールド満開、春の出世噺!!
立川 談寛
2026/03/31
「浪曲案内 連続読み」 第10回
新釈浪曲忠臣蔵 ~202X年赤穂の旅
~忠臣蔵は難しい? そんな先入観を覆す浪曲コラム
東家 一太郎
2026/03/24
月刊「浪曲つれづれ」 第11回
2026年3月のつれづれ(玉川太福の受賞、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、『深夜食堂』&『陰陽師』の浪曲化)
~スターの活躍と新しい挑戦が交差する、いまの浪曲界をご紹介
杉江 松恋
2026/03/09
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々の舞台裏
三遊亭 司
2026/03/02
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第11回
病んでる間に千春の春到来
~体調不良で“声”を失っても、“笑い”は失わない宇宙一の美人浪曲師の事件簿!
東家 千春
2026/03/03
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第11回
〈書評〉 サライ 2026年4月号 (大特集:落語 講談 浪曲 サライの「演芸」 令和の名人)
~人間国宝の鼎談から若手の最前線まで網羅した豪華特集。読むほどに、もっと聴きたくなる!
杉江 松恋
2026/03/19
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第27回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第28回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編①)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/13
月刊「シン・道楽亭コラム」 第11回
シン・道楽亭Webサイトリニューアル! ほぼほぼAIで作ってみた話
~どんな思いで運営しているのか、どんな場所として受け入れられたいのかをお伝えしたい
シン・道楽亭
2026/03/10
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第31回
映像思考で編む、新世代講談 田辺一記(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/28
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「お恐れながら申し上げます」 第6回
早朝寄席のこと
~精一杯やりますので、ご来場をお待ちしております
入船亭 扇太
2026/02/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第10回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.2
~共同席亭という名称のひらめきと、橋本さんとの生前最後の面談詳細
シン・道楽亭
2026/02/10
月刊「浪曲つれづれ」 第10回
2026年2月のつれづれ(沢村豊子を偲ぶ会、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、帯広浪曲学校)
~世界に一つだけの宝
杉江 松恋
2026/02/09
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/02/03
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第10回
宇宙一の美人も風邪には勝てない
~たっぷりの愛情を込めて濃密な世界を描く芸人日記
東家 千春
2026/02/03
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25