たいこ腹、粗忽長屋、甲府い

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第2回

たいこ腹、粗忽長屋、甲府い

甲府い (画:おかめ家ゆうこ)

林家 はな平

執筆者

林家 はな平

執筆者プロフィール

奥深い「オチ」の世界

 落語にはオチ(落ち)がある。噺家はこれをサゲ(下げ)と呼ぶことが多い。オチには、「くだらないオチ」、「説明しないとわからないオチ」、そして「秀逸なオチ」など、さまざまな種類がある。

 この連載では、それらのオチを筆者なりに★★★で分類し、あらすじ・オチ・解説]の順に紹介していく。なお、の数の基準は、第1回を参照されたい。

 第2回は、『たいこ腹』『粗忽長屋』『甲府い』のオチを見ていこう。

四席目 『たいこ腹』(たいこばら) 

[ワンポンイト] 幇間(ほうかん)とは、客に逆らわず、場を盛り上げる芸人である。この噺では、その幇間の一八(いっぱち)が、若旦那の悪ふざけで危険な目に遭う。痛いはずの場面をどこまでバカバカしく描けるかが、この噺の聴きどころだ。

【あらすじ】

 お金と時間が有り余る若旦那。退屈だからと、鍼医(はりい)がやる鍼をやろうと思いつく。襖や畳に打ったり、果てには猫にも打ったり、だけど面白くない。人間に打ちたいと考え、なんでも言うことを聞いてくれる幇間の一八をお馴染みのお茶屋に呼び出す。

 実験台にされる一八のお腹に鍼を打つ若旦那。一八が痛くて悶絶すると、鍼が折れてしまい、若旦那は「迎え鍼を打つ」と言い、また鍼を打つ。しかしそれも折れてしまい、怖くなった若旦那は逃げ出してしまうが……

【オチ】

 真っ青な顔の一八のところへ、お茶屋の女将が来て事情を聞く。

女将 「素人に鍼は打たすもんじゃないよ。だけど、お前もこの辺じゃあ、ちっとは鳴らした幇間(たいこ)だよ。いくらかにはなったんだろ?」

一八 「いいえ、皮が破れて鳴りませんでした」

【解説】


 「太鼓持ち」「幇間持ち」は、両方ともに「たいこもち」、幇間は「ほうかん」と読むが、意味はどれも同じである。決して逆らわず、常に下に入って、お客さんから祝儀をもらう芸人のことだ。

 お腹に鍼を打たれて大ピンチを迎えているにも関わらず、洒落を言ってしまうところが幇間の性(さが)。1つの噺だが、オチの納得度が高いのは、苦し紛れに発するひと言だからかもしれない。どんな状況でも愛嬌で乗り切る幇間は、落語の愛すべきキャラクターの一人である。

 この噺は、リアルにやり過ぎると途端にウケなくなる。お腹に鍼を打つという、いわば拷問のような場面をいかにバカバカしく描くかが鍵となる。鍼を打つ若旦那も、打たれる一八も可愛く描かないと笑えない。

 テレビでやるリアクション芸が面白いのと近いのかもしれない。まさにダチョウ倶楽部の世界だ。だけど、素人が鍼を身体に打つ行為はやはり恐ろしい。

 良い子は、絶対に真似しないでほしい。