たいこ腹、 粗忽長屋、 甲府い
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第二回
- 落語
林家 はな平
2025/06/06
五席目 粗忽長屋 (そこつながや) ★★
[ワンポイント]
この噺の肝は「あり得ない話を、あり得る顔で押し通す」点にある。行き倒れの身元確認という現実的な状況から始まり、八五郎のひと言を境に世界がズレていく。聴き手は否定しながらも、いつの間にか二人の理屈に付き合わされることになる。
◆【あらすじ】
浅草の観音様の境内に来た粗忽者(そこつもの:そそっかしくて、おっちょこちょいの人)の八五郎、人だかりが出来ているので訳を聞いてみると、昨晩からの行き倒れがあって身元がわからないから、集まった人に顔を見てもらっていると言う。
死体の顔を見た八五郎、これが仲良しの熊五郎だと言う。身元がわかって安堵する見物の人たち。しかし、八五郎は「当人(熊五郎)を連れてくる」と言い、熊五郎宅へ向かう。
熊五郎に今あったことを話す。「お前は、昨晩死んで、それにも気がつかずに家に帰って来た。だから一緒に浅草へお前の死骸を取りに行こう」と訳のわからないことを言うが、同じ粗忽者の熊五郎も、なぜかこれに納得をして、二人で死骸を引き取りに行くことになるが……
◆【オチ】
周りの人が止める中、死骸を持とうとする二人。
熊五郎 「兄ぃ、俺なんだかわかんなくなってきた」
八五郎 「何が?」
熊五郎 「抱かれてるのは確かに俺なんだが、抱いてる俺は、いってえ誰だろう?」
◆【解説】
行き倒れは、何かの事情で道端で倒れて死んでいる(気を失っている)人のことを指す。名人と呼ばれた五代目 柳家小さん師匠が十八番にしていた噺だ。どこまでも粗忽な二人が繰り広げるファンタジーとも言うべき落語である。
第1回で取り上げた『あたま山』もそうだが、お客さんが「そんなことありえない」と思うところから、噺をどう引っ張って行くかが鍵となる。このオチは言葉が前後すると意味がない。「抱いているのは俺だが、抱かれているのは誰だろう」だと普通の人になってしまう。「抱かれてるのは俺だが……」だから面白くなる。死骸の方が自分であるという結果が先にあって発している台詞なのである。
もう1つ重要なのは八五郎で、前半で大活躍する。死骸を見て熊五郎だと確信した八五郎が「当人を連れてくる」と言う台詞を聴いたお客さんは一旦ざわつく。だけど、それを真剣に押し通す八五郎が段々可笑しくなって来る。
同じ粗忽者の熊五郎とのやり取りも面白く、熊五郎(自分)の死骸を取りに行く話を真剣に語り合う。聞いていると、本当に死骸が熊五郎ではないかと錯覚してしまうことすらある。もはやそこまで行けば名人で、なかなかその領域に行くのは難しい。
定番だけど難しい噺の1つである。
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