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煮物の記憶とイカの国

シリーズ「思い出の味」 第4回

煮物の記憶とイカの国

今も思い出す、懐かしい料理の味と、かけがえのない時間の記憶

柳家 花ごめ

執筆者

柳家 花ごめ

執筆者プロフィール

祖母にしか出せない味

 「思い出の味」というテーマで、真っ先に頭に浮かんだのは祖父母の家だった。

 母方の祖父母は、幼い頃から比較的近くに住んでいたため、日常的に遊びに行っていた。近くと言っても歩いて行けるわけではなく、車で一時間弱という絶妙な「イベント感」のある距離感だった。そのため、行くたびにワクワクできたし、祖父母も孫の顔にほどよい新鮮味を保っていたようで、幼い私と弟をいつも歓迎してくれた。

 孫へのもてなしと言えば、メインはやはり食事であろう。例にもれず、私たちも随分ごちそうしてもらった。中でも印象に残っているのが、祖母の作った煮しめである。根菜や鶏肉、蒟蒻などが優しく味付けされて、大皿に食材ごとに整然と並べられる。

 今思えば、決して子供ウケするビジュアルではなかったと思うが、これがやたらと美味しかった。何か特別な調味料を使っているわけではなく、普通に家にあるものしか使用していないのに、この配分が見事な塩梅で、祖母にしか出せない味になっていた。

 私の母もかなり料理上手な人で、自分で食べたもののレシピはよほど凝ったものでなければ大体再現できてしまうレベルなのだが、その母でさえ「おばあちゃんの煮しめは作れない」と言っていたので、その味付けはもはや名人芸の域に達していたと思われる。

 ミシュランの星0.7くらいは貰えたんじゃなかろうか。いや、流石にそれは思い出補正と、身内贔屓が過ぎるだろうが、私にとってはそれくらい、美味しい思い出だった。