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じゃがいも

シリーズ「思い出の味」 第5回

ワイルドなハムと、つぶ貝のエスカルゴ風

 年に一回、故郷で落語会を主催している。タイトルは『立川談吉 ふるさと落語会』というとてもシンプルなものである。

 第1回が2014年の6月なので、もう10年以上前になるが、コロナの関係もあり、まだ8回しか開催できていない。当然、今年も予定しているが、主催の談吉がポンコツなので、まだ会場予約すらできていない。いい加減に色々決めなくては。

 『ふるさと落語会』を始める前は、年に一度として両親に会うことがなかった。場所が場所だけに、交通費もかかるし、何より前座の頃は帰る余裕もなかったのだ。

 二ツ目になり、会を始めてからようやく故郷に帰ることができた。東京に比べて何もないと思っていた田舎に、美味しい食べ物が溢れていると知ったのは落語会のおかげである。

 打ち上げで旬の食材をいただいたり、美味しいお菓子のお店を教えてもらったり、昔行った懐かしいお店に行ったり。知ってるお店だけでなく、新しく出来たお店をお客様に教えてもらい、故郷の良さを再確認した。

 帯広の中心部に「北の屋台」というものがある。屋台といっても屋根や壁があって、寒い冬でも楽しめるようになっている。

 多様な形式のお店がいくつも並んでいて、観光客はもちろん地元民にも愛されている。私が実家に住んでいた頃はなかったものだし、そもそも未成年だったので、お酒の出るお店などはまるで知らなかった。

 その中のあるお店に、お客様(Yさん)が打ち上げで連れて行ってくれた。コの字型のカウンターになっており、席は8席くらいしかない。カウンターの中心にマスターと呼ばれる怪しい髭の紳士がいて、その後ろでシェフである奥様が料理を作るシステムだ。

 カウンターの上に大きなラクレットチーズと、何らかの獣の足がワイルドに置いてあり、獣の足は丸ごとハムになっている。

 Yさんが注文をすると、カウンターの上にある獣の足にナイフを入れ、ハムを薄く削いでいく。紅色のお肉をお皿の上に綺麗に並べて、ブラックペッパーをふりかけたものが目の前に提供される。このハムだけでお腹いっぱいになってもいいと思う美味しさで、あっという間にお皿が綺麗になった。

 次に出てきたのは、つぶ貝のエスカルゴ風という謎の料理だった。エスカルゴのお皿にエスカルゴのようにつぶ貝が入っており、オリーブオイルや何やらでエスカルゴ風になっており、これもとても美味だった。残ったお汁をバゲットに染み込ませて食べると、またお皿が綺麗になった。