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『小説』 (野崎まど 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第1回

人は何かに縋って生きている

 息子も小学生になり、幼児の頃よりも私が私のために使える時間が増えた。本を読もう。

 とはいえ、私は毎月「らくごカフェ」で二席、ネタおろしの会をやっている。日々ネタ作りにも追われている。なので、1日50ページだけの読書を始めた。漫画で1日50ページは難しいので、小説を読むことにする。さりげなく会の宣伝を入れるのが、私の抜け目ないところだ。

 このコラムでは、私の読んだ本の紹介をしていきます。私は、この世で傘を水平に持つ人間の次に「ネタバレ」が嫌いなので、極力ネタバレになるような箇所には触れず、感想を書き綴っていきます。

『小説』 (野崎まど 著)

 主人公の「内海集司」は教育熱心な父を喜ばせる手段として、5歳の頃から読書を始め、徐々に「小説」の世界に魅せられていく。小説がきっかけで出会った唯一の友人「外崎真」と、ただひたすら小説を読み続ける。

 ある日、小学校の近くにある古く大きな屋敷、通称「モジャ屋敷」、そこに住むのが有名な小説家だという話を聞き……。

 小説のタイトルが『小説』。私も新作落語を作るが、『落語』という大それたタイトルの新作は、作りだす勇気も自信もない。しかし、この小説は『小説』だ。小説に出会った二人の少年を通して、「小説とは何か?」という、想像を遥かに超える予想できない物語が紡がれる。

 人は何かに縋(すが)って生きている。私は「面白い」に縋って生きてきた。スポーツや勉強ができるわけでもなければ、クラスの人気者でもない。でも、心の中で「俺は面白いんだ」と信じ、披露する当てのない漫才やコントを架空の相方と作り、ただただノートに書き続けていた。

想像を超える展開に心が躍る『小説』と筆者