NEW
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第4回
- 連載
- 講談
師匠の芸に魅せられて
鯉花の「水戸黄門記」の楽しさは、そのテンションの高さで聴き手を引っ張っておきながら、一気に聴き手を話の舞台へと誘い、登場人物の姿を確と描き出す講談特有の地の文に、人物の様子を導き出す会話文の巧みさにある。そこに読み手の思いや考えというスパイスが加えられるが、そのスパイスが芸と年齢を重ねていくことで、どんな味わいになるのかが楽しみである。
―鯉花さんにとって、そんな神田松鯉先生の好きな演目はなんですか。
鯉花 やっぱり『笹川の花会』です。聴いていて自然と涙が出てきました。身震いもしました。それまで「良いお客さんでいなきゃ」と思っていたのに、心から「弟子になりたい」と思った自分にビックリしました。でも理屈じゃ止められないんですよね。入門のお許しが得られて本当に良かったです。
あと特に思い入れがあるのが『扇の的』。バイトしている合間をぬって夢中でずっと聴いていました。夜中まで働いて、片付けを終えて、そのあとにまた聴く。元気が出て、気持ちがいい。師匠の声って素晴らしんですよ。グイッと引っ張っていく声で、ドッシリとして深い声ではあるんですが、温かみのある声なんです。
そうそう、始発の電車に乗る時も聴いていました。バイトは辛いことも多かったんですが、辛い気持ちがどっかに行っちゃうんです。
松鯉一門の必須講談というべきなのが連続物。鯉花が挙げる演目のほか、「天保水滸伝」に「徳川天一坊」、「宮本武蔵」に「赤穂義士伝」。それらを連続で聴かせる腕も必要だが、物語のエッセンスが詰まった一場だけを読む腕も求められる。今「水戸黄門記」をはじめとした連続物を前に、鯉花は一場一場の魅力に迫るように読んでいる。
―現時点で、鯉花さんが大好きな一席を選ぶとしたら、どんな話になりますか。
鯉花 悩みますね、その時々で変わりますから……。今は『隆光の祈り』でしょうか。話が入り組んでいるので、難しいと言われることがありますが、真打になった時に売り物にしたい一席です。ドロドロしてますけど、講談の面白さが詰まっていて、やっていて楽しい。
呪い殺そうとしている場面はおっかないですが、最終的には悪い奴に勝つので、ある意味、縁起が良い気もします。それにマンガみたいに絵が浮かんでくる話なので、口慣れてきて、さらにそういったところが描ければ、楽しい話になるはず。この話は特に貫禄がなければいけないと思いますし、何とか説得力が出るように、ブラッシュアップしていきながら読んでいきたいと思っています。
(以上、敬称略)
(後編に続く)