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悩ましい食の話と雀々エピソード1

「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回

ポメラニアンに怯える師匠

 昨年(2024年)、急逝した桂雀々師匠。あまりに突然のことに骨を拾ったにも拘らず、未だ実感がわかない。

 師匠は、高座はもちろんのこと、普段も面白い人だった。無理して笑わせようとしているわけではなく、本人は大真面目に生きているのだが、一挙手一投足が滑稽である。

 「湿っぽい話は、性に合わん!」と言われそうなので、折に触れ、雀々師匠の楽しいエピソードを紹介しようと思う。

 意外かもしれないが、師匠は動物嫌いである。

 嫌いと言うより「怖い」と言った方が正解かもしれない。とにかくビビリーである。反して、私は大の犬猫大好き派なので、道行くワンコにも温かい眼差しで接している。

 ある日、師匠と歩いていたら対面から犬が散歩しているので、笑いかけたところ、嬉しそうに近づいてきた。すると、すかさず師匠が私の後ろに隠れ、「阿保~! おまえが笑うから、来たやないか!」とブルブル震えているのである。

 言っとくが、シェパードやドーベルマンではない。小さなポメラニアンだ。

 やれやれ……。

 師匠の大阪の家では十数年飼っているチワワがいるそうだが、未だ慣れず、師匠が帰る度に威嚇し、めいっぱい吠えるらしい。やっぱり動物もわかるのだろう。

 こんなこともあった。BS12でレギュラー番組があった頃。毎回、成功した人の話を聞きに行くのだが、「次の体験ロケは、鷹匠なんてどうですか?」とディレクターから提案があった。

 当然、動物嫌いのことをよく知っている私が、あっさりと断ってくれると思ったのだろう。平然としていたので、少し意地悪な気持ちになり、「いいんじゃないですか。そんな体験、なかなか出来ないし」と賛同したところ、あの小さな目に涙をいっぱい浮かべて「いやや~! そんなことするために落語家になったんやない!」と理屈の通らない反論をして周囲を驚かせた。

 後にも先にも、あんなに反対した師匠は初めて見た。本気で怖かったのだろう……。