〈書評〉 実録浪曲史 (唯二郎 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第3回
- 浪曲
- Books

杉江 松恋
2025/07/30
文芸浪曲の系譜と関連人物
こうした文芸浪曲の系譜は脈々と受け継がれてきた。「新作について」の項は最後に、文芸浪曲の大家・酒井雲(さかいくも)を紹介している。この人が世に出たきっかけは、菊地寛(きくちかん)『恩讐の彼方に』を浪曲化したことだという。浪曲メッカの一つ福岡にあった川丈座での初演で、雲はテーブルに筵(むしろ)をかけ「魁」と墨書して不退転の決意を示したのだという。
『実録浪曲史』の記述にはないが、この雲と同郷で、芸に惚れ込んで一時期後援会長になっていたのが、後に自民党議員として十期を勤めた辻寛一(つじかんいち)、作家・辻真先(つじまさき)の父である。
辻寛一は長谷川伸(はせがわしん)を文章上の師と仰いでいた人だったので、雲の文芸浪曲路線とは共鳴するものがあったのだろう。その息子である真先は、幼少期から物語がそばにある生活を送り、倶楽部雑誌などに掲載された時代小説を滋養として育ったが、あるとき江戸川乱歩(えどがわらんぽ)の〈少年探偵団〉シリーズに出会ったことから探偵小説に目覚め、戦後になって脚本・小説の両面で名を残す大家になる。
ページをめくるたびに広がる知識の旅
といった具合に、ページをめくっているとさまざまなことに思いを馳せることになり、なかなかすぐには読み終えることのできない一冊である。ここまで触れたのはわずか70ページほどの内容で、到底全貌を紹介するには至っていないが、とにかく密度の高い本なので、お手に取って情報の多さに圧倒されてみていただきたい。知識欲を満たしたいという方にとっては、この上ない好著となるはずである。
唯一の難というか、この手の書籍につきものの問題は、出てくる固有名詞が多すぎて初読時には混乱してしまうということだ。索引があればよかったのだが、残念ながら付されていない。
しかし心配ご無用。そういう方のために、私が人名索引をこしらえた。拙著『浪曲は蘇る』(原書房)執筆にあたり基礎資料が必要だったため本書を熟読した。その際、後で必要になるだろうと考えてこれを作ったのである。手作業であるため誤記があるのは勘弁いただきたいが、読解の助けにはなるはずだ。私のサイト〈本芸〉の中に置いてあるので、ぜひご利用ください。
▼浪曲研究者の便に供す:『実録浪曲史』索引(不完全版)
(以上、敬称略)

- 書名 : 実録浪曲史
- 著者 : 唯二郎
- 編集 : 布目英一
- 出版社 : 東峰書房
- 書店発売日 : 1999年6月
- ISBN : 9784885920486
- 判型・ページ数 : A5判・448ページ
- 定価 : ―
(毎月29日頃、掲載予定)
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